ナイモノネダリ＜M.Hokuto＞ (ページ4)

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Aside

「……」

今、鮮明に蘇ってきた記憶を少し懐かしむ。

確か、あのとき北斗が持っていた本…

…北斗。

彼は、高校生の時に付き合っていた私の初彼氏だった。

“だった”と過去形なのは、もうすでに別れているから。

高校卒業間近で、私たちは別れた。

理由は、北斗がかなり遠い大学に行くことになったから。

遠距離恋愛でもよかった。

でも、私たちはその前に柄にもなく喧嘩をした。

あんまり喧嘩したことなんかなかったから、いつになくヒートアップして、そのまま別れた。

今思えば若気の至りだったなと思う。

でも、後悔をしていないと言えば嘘になってしまうことも事実だった。

北斗は、本当にいい彼氏だった。

本当に私は、北斗のことが好きだった。

黒髪がよく似合って、とても綺麗な顔立ち。

常に落ち着いていて、私の行動をいつも微笑ましく見守っていた。

読書をするとき、自然と口角があがるとこ。

黒縁メガネを愛用して、授業中によくかけていたとこ。

そんな綺麗な横顔をまじまじと見つめると、“なにお嬢さん”と言って少し頬を染めるとこ。

一緒に通学するときは、自然と道路側を歩いてくれるとこ。

変なとこ素直じゃなくて、たまに不器用なとこ。

記念日は絶対に忘れなかったとこ。

低くて、落ち着いた声で私の名前を呼ぶとこ。

私の発言にいちいち反応して、面白そうに笑うとこ。

“大好き”と照れた顔で言うとこ。

全部大好きだった。

今、彼がどこで何をしているのか。

さっぱり見当もつかない。

きっとどこかで、静かに生きてるんだろうな。

高校を卒業してから、もう数年は経過した。

私は、そんな思い出を仕舞い込むように、慌てて小説を本棚に押し込んだ。

優吾「A～！！持ってくるよ～！！」

「…あっ、はーい！！ちょっと待って！！」

私は、慌てて本を丁寧に本棚に入れると、ばたばたと高地の方を手伝いに行った。