番外:降誕祭の怪物 3 ページ32
「中原さん、惨堕倶呂宇須、なる者について御存知ですか?」
「惨……?」
「降誕祭に現れるのだと聞きました」
「……あ、サンタクロースの事かよ」
降誕祭が近かろうが何だろうが仕事はある。今日の会議が終わり、会議室に人も疎らになってこようかという頃、中原は気まずげな芥川に話し掛けられた。この男に似合わない響きだ、なんて思いながら中原は頭を搔く。芥川の境遇を考えれば知らないのも無理はない。銀も寄ってきて、中原は二人にサンタについて講釈をすることになった。
「俺も詳しい事はよく判らんが」と前置きし、自身のふわふわした記憶と知識を手繰り寄せ話し出す。
「こう……口髭を蓄えた爺さんの姿で、でっかい袋を肩に下げてるんだよ」
「強いのですか」
「強い……? 一晩で世界中を回れるくらいだからな、まあ強いってことになってんじゃねえの。あとは……そうだな、赤い服だ。それと、角の生えた……鹿? いや馬か……? あー、兎に角四足歩行の動物を手懐けて常に連れてるらしいぜ」
「その様に目立つ装いをしていながら、誰にも捕まった事が無いと……?」
芥川は人を刺殺せんばかりの角と鋭い牙を生やした凶悪な獅子を従え、返り血で真っ赤に染まった筋骨隆々の男を想像した。
恐らくそれは幼子を喰らう食人鬼だ。大きい袋を持っているというのなら、その中身は攫った子供達だろう。喰う傍ら、人身売買か臓器売買も行っているに違いない。
斯様な怪物との逢瀬を、世の幼子は楽しみにしているというのか。 一体何故。
その後に中原が続けた「そんで子どもに贈呈品を配って回るっていう、奇天烈な爺さんだよ。ま、空想上の生き物だけどな」という言葉は、自問自答を繰り返す芥川の耳には微塵も入っていなかった。
かつての上司である太宰治は、こう言った面を含めそれを独走癖と揶揄するのだが、芥川にその自覚はない。
□□□
その日の夜、銀はもう少し遅くなるというので、芥川は子供と共に帰路に着いていた。
白い息を吐きながら、己の足元をちょろちょろと歩き回る子供を見つめる。祭り事で浮かれ何時もより明るい街並みにつられているのか、子供は呑気に歌っていた。
「すっずがーなるー」
「……童」
「あい」
「安心せよ。僕が居る限り、惨堕なる者に手出しはさせぬ」
「?」
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糖莉 - めっちゃくちゃ面白くて一気読みしてしまいました。最後がとても感動?してグッときました。この作品に出会えてとても良かったです! (2022年1月30日 22時) (レス) @page50 id: b9fd4d8946 (このIDを非表示/違反報告)
獏(プロフ) - 完結されてから時間が経ちましたが、どうしても感想を伝えたくなり書き込みました。すごく好みの作品でした。最後に芥川さんが名前をつけようとするところがグッときて仕方がありませんでした。こんなに良い作品に出会えて嬉しかったです。ありがとうございました (2021年8月7日 18時) (レス) id: e438c140c8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - dekuさん» ありがとうございます!! 完結した今でもこうして感想が来るのは本当に嬉しいです!!敦くんの話はもっと丁寧にやりたかったな〜と思っていましたが話数の都合で断念(-人-) (2019年6月30日 13時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - しぇるふぃあ。((芦原晴))さん» 語彙力のある感想に死にそうになってます……一気読みお疲れ様でした本当にありがとうございます幸せです 変わったとはいえ芥川にとって我が子に上手く愛情を注ぐのはきっと難しい事で将来は色々苦悩したりすると思います笑 (2019年6月30日 13時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 秋霖時雨さん» ありがとうございます! 彼は自分の事を「卑しい身の上」だと思っている部分は多少なりともあって 自分の血を引いた子供は不幸になる と考えいた芥川が諸々吹っ切れた台詞だったりします(こっそり) (2019年6月30日 13時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめ(元団子) | 作成日時:2018年10月14日 18時