おいで ページ8
子供は通路の端に塵のように寄せられた死体達を見て、熱くなったアスファルトの蝉の死骸を思い出した。
生きている人達は皆一様に黒いスーツを着て、忙しそうに移動しながらも紅葉には必ず頭を下げてゆく。
「起きたらこの建物の地下にいて、服を交換して、エリスにＱの牢……部屋？……に隠れていろと」
「そうかそうか。敵襲の中であっても、Ｑの座敷牢に自ら足を踏み入れる構成員はおらぬからのう」
「彼は夢野久作と名乗っていたが、なぜ皆Ｑと呼ぶ？」
そう不思議そうに訊く子供は、Ｑが普通の子どもと信じて疑っていない。
運の良い童だ。紅葉は横を歩く子供を見遣り、桃色の打掛の袖を口元に当てて目を細めた。
「彼奴は皆から忌み嫌われておる。誰も、本名ですら呼んでやりたくないのじゃ。故にＱと記号で呼ぶ」
「……大変だな久作の奴」
「ふふ。さあ、着いたぞ。入れ」
階級が上の構成員には、個人の執務室の他、私用の空間を本部に与えられる。子供をそこに連れて行き、紅葉は言った。
「どれ、童。此処には私とそなただけじゃ。怪我がないか確認してやろう。身に付けている衣服を全て脱げ」
「ん」
子供は羞恥心も躊躇いもなく緩いシャツの釦を外し、調帯が余ったズボンを下着ごと足から抜いた。
紅葉は、女の柔らかさとはまだ程遠い、象牙のように滑らかで硬そうな子供の肌を矯めつ眇めつ眺めた。何処からも出血していない。
そんな筈はない、と紅葉は思う。この子供を敵組織の構成員と判断した紅葉はその幼い見目に少なからず同情して、せめて苦しまぬようにと心臓をひと息に貫いたのだ。現に、子供が脱いだシャツには薄い刃物が貫通した穴がある。
「……ふむ。怪我は無いようじゃの。浴室は此方じゃ、好きに使うて良いぞ」
「わかった。ありがとう」
水が浴室のタイルを叩く音を聞きながら、紅葉は床に紅を広げる子供の骸を思い出した。
開いたままの目が生気を失ってゆくのを見て、その瞼を閉じてやってから紅葉はその場を立ち去ったのだ。
水音は止み、少しの間の後、用意された淡青の病院着を着た子供が紅葉の前に現れた。
「Aと云ったか……そなたは、自分が変わった力を有していると感じた事はあるかえ？」
唐突な問いに、子供はきょとんと瞬いて「別にない」と答えた。
窓際の椅子に浅く腰かけていた紅葉は、机上の小抽斗から細い針を取り出す。鳥兜の毒液を先端に塗布した物だ。
紅葉はそれを掌に隠し、子供を安心させるように微笑んだ。
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麗(プロフ) - 更新されるの楽しみにしています！ (2021年5月8日 12時) (
レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
篝火 - こ、更新だーー！！水を得た魚のように、認知して！から読み返して参ります！！！ (2020年11月3日 2時) (レス) id: 77c7a84bb1 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 篝火さん» 読んでくださる人がいた…！？ひぇ〜すみません放置して 好きとの言葉嬉しいです！ (2020年11月2日 0時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
篝火 - 昨日はハロウィンだったなと思い戻って参りました。好きな作品が止まっていて悲しいです… (2020年11月1日 20時) (レス) id: 77c7a84bb1 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 芥川さんが幼児ちゃんに貢ぐ……と云うより交流？お出掛け？合法的に会える？日ですね。横浜のハロウィンは平和で楽しそうな感じがします。 (2019年10月29日 23時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こめ | 作成日時：2019年8月25日 23時
