番外 HAPPY HALLOWEEN4 ページ20
「俺は、子どもを育てていた。一番年長の子は君と同じくらいだった」
子どもの扱いに慣れているんだな、と訳知り顔で云った子供に流石に少し噴き出し、オダサクはしっかりとした声で話し出した。
「仕事柄、一緒に暮らす事はできなかったから、ある咖哩屋の長屋を借りてそこに通った。可愛い子達だったよ。一生懸命俺を倒そうと計画を立てて待ってるんだ」
ちかちかと、車内の電灯が死にかけの生き物のように点滅する。空気がどんどん冷えている気がして、子供は相槌を打ちながら周囲を見渡した。
また電車が止まり、静かに扉が開く。駅名標には『なんでおりれるか』と何の変哲もない字体で書かれていた。扉が閉まる。
「オダサクさん、何か寒くないか」
「いいや。俺は何とも」
「外が騒がしい。人の声だ」
「それは風の音だ。人はいない。何処にもいない」
寒いならこれを着ろ、とオダサクの上着を被せられ、それをたぐり寄せながら子供は駅から次の駅に着くまでの間隔が短くなっている事に気づいた。
扉は静かに開き、降りる者がいないとわかると勢い良く閉まる。まるで腹を立てているように。
『なんでおりれるか駅』
『窓からおりろ駅』
『おりろ駅』
『おりろ』
『おりろ』
『おりろ』
暗闇で、足元の方から袋が落ちた音が聞こえた。中身の菓子が散乱してしまっているのが、一瞬だけ付いた電灯のおかげで判った。
拾って早く降りなければ、と子供はオダサクの逞しい腕に抱えられながら考えていた。
すん、と鼻を鳴らして子供は云った。
「鉄の匂いがする。濃い匂いだ」
「そうか、それはすまない。もう暫く我慢してくれ」
何故か謝ったオダサクに首をかしげ、子供は身動きがとれない状態のまま大人しくしていた。降りようにもこれではどうしようもできない。
ふと子供は顔を上げた。膝に跨らせるように子供を抱えたオダサクの肩越しに、窓にびっしりと貼り付いた手が見えた。そばにあるオダサクの顔さえ見えない暗闇だというのに、その白い手のひらだけはくっきりと浮かんでいた。
「次は、石川町駅──」
子供が知っている駅名が流れた時、ふとオダサクの腕による拘束が緩くなった。子供はすかさず腕から抜け、明るく照らされた場所でオダサクの姿を改めて見た。
「よく頑張ったな。もう降りても大丈夫だ」
そう云い、微笑むオダサクの左胸は真っ赤に染まっていた。濃い鉄の匂いはそこからしていた。
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麗(プロフ) - 更新されるの楽しみにしています! (2021年5月8日 12時) (レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
篝火 - こ、更新だーー!!水を得た魚のように、認知して!から読み返して参ります!!! (2020年11月3日 2時) (レス) id: 77c7a84bb1 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 篝火さん» 読んでくださる人がいた…!?ひぇ〜すみません放置して 好きとの言葉嬉しいです! (2020年11月2日 0時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
篝火 - 昨日はハロウィンだったなと思い戻って参りました。好きな作品が止まっていて悲しいです… (2020年11月1日 20時) (レス) id: 77c7a84bb1 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 芥川さんが幼児ちゃんに貢ぐ……と云うより交流?お出掛け?合法的に会える?日ですね。横浜のハロウィンは平和で楽しそうな感じがします。 (2019年10月29日 23時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめ | 作成日時:2019年8月25日 23時