甘くはないさ ページ13
「頭冷やせ」と云う中原の言葉と共に古い地下牢に閉じ込められた芥川は、鉄パイプの寝台に腰掛け、自身が着ている作務衣のような服を見下ろした。
特殊な繊維で織られたそれは、異能の発動ができない造りとなっている。
確かに、芥川は冷静ではなかった。
与えられた雑務を終え、芥川は首領の元に馳せ参じた。マフィアの拠点内で子供の安全を確保するには自分が傍に居るのが一番だと判断したからだ。
入室したそこで、芥川は倒れ付す子供を、ゆっくりと広がる赤を見た。紅葉の仕込み刀から同じものが滴るのを認め、その後の記憶は朧気だ。
中原に頭を掴まれた子供が咳くのを見て、まだ生きていると安堵した事はハッキリ覚えている。
では今は？ 今も子供は生きているのか？
鉄格子の向こう、土壁に掛けられた松明の灯を睨み付けて芥川は考える。苦しげに噎せる子供の咳に血液は絡んでいなかったので、見た目よりは重傷ではないのだろう。
芥川は深く息を吐き、祈る様に組んだ手を俯いた額に押し当てた。希望的観測と知っていても、何の情報も得る事が叶わぬ此処ではそれに縋るしかないのだ。
だが、もし子供が殺されてしまっていたら、
「芥川君？ おーい」
その時は舌を噛んで自決しよう。贖罪などと云う心算は無いが、自分の子ひとり守れなかった者は惨めたらしく死ぬのが丁度良い。
「あれ？ 芥川君ってば」
然しそれでは子供の存在自体が無い事になってしまうのではないか。そんなのは駄目だ。ああ彼の子がこの時間軸に居る弊害がこんな所にあるとは。
「無視かな？ もしもーし、芥川くぅん？」
「五月蝿い！」
「元上司に対しての口の利き方が酷いな」
芥川は煩わしい声を怒鳴りつける為に顔を上げた。十秒ほど静止して目の前の人物を見つめ、地から這い上がってきたような溜息を吐く。
「……ああ、太宰さんですか」
「私、『激昂するな』って言ったのになあ。キミそんなんだから敦君に負けるんじゃない？ やーいポンコツぅ」
「貴方の発言とて聞き逃せぬ。訂正しろ……！」
「ああもう太宰さん！ 芥川を煽るのは止めて下さい！」
芥川は顔を顰め、太宰の隣に立つ敦を見た。敦の手には芥川が奪取された筈の黒外套がある。
驚愕する芥川に気付き、「感謝しろよ」と溜息混じりに言った敦は、鉄格子の隙間から外套を芥川に突き出した。
「僕達はAちゃんを回収しに来たんだ。協力する意志があるなら、お前も来い」
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麗(プロフ) - 更新されるの楽しみにしています！ (2021年5月8日 12時) (
レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
篝火 - こ、更新だーー！！水を得た魚のように、認知して！から読み返して参ります！！！ (2020年11月3日 2時) (レス) id: 77c7a84bb1 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 篝火さん» 読んでくださる人がいた…！？ひぇ〜すみません放置して 好きとの言葉嬉しいです！ (2020年11月2日 0時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
篝火 - 昨日はハロウィンだったなと思い戻って参りました。好きな作品が止まっていて悲しいです… (2020年11月1日 20時) (レス) id: 77c7a84bb1 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 芥川さんが幼児ちゃんに貢ぐ……と云うより交流？お出掛け？合法的に会える？日ですね。横浜のハロウィンは平和で楽しそうな感じがします。 (2019年10月29日 23時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こめ | 作成日時：2019年8月25日 23時
