×海藻 ○回想 ページ11
「大丈夫？」
「……」
海から引き上げられた子供は、さんさんと照る太陽を無言で見上げ、ぺたりと座り込んだ己の膝に視線を下ろした。
「此方を見て。私の質問に答えて」
痺れを切らした鏡花はそんな子供の顎を掴み、強制的に上を向かせた。間近で見た子供の顔は誰かに似ているような気がしたが、鏡花は子供から一切の生気が感じられない事の方が気掛かりだった。
子供はぼんやりとした無表情で鏡花の藍色の瞳を見上げ、「長い夢だ」と小さく唇を動かした。
「どこからが夢なんだろう。死ぬのは眠るときの感覚と似ている。だから死んで生き返れば、それは起床と同じではないかと思ったのに、ちっとも醒めない」
前職で、心を壊した人は幾度か見た事がある。言葉の通じぬ狂人は皆同じ目をしていた。子供の目は狂気を湛えてはいない。だが、己の人生に何の価値も見出せなくなり、自棄になっている瞳はかつての自分と同じだった。
「──夢じゃない」
同じなら、救わねばならない。
鏡花は子供の濡れた狭い肩に手を置いて、ゆっくりと言った。
「夢じゃない。貴女が何者で、何を考えているかは知らない。けど、いま貴女が見ているものは全て現実。いくら寝て起きようと、現実は醒めない、変わらない」
げんじつ、と幼子のように繰り返した子供に頷き、鏡花は子供に外套を被せた。
赤信号に変わった交差点に飛び出す前、子供が脱ぎ落とした外套であった。すれ違いざまに鏡花が拾い、声をかけようとした処で子供は撥ねられたのだ。
「私の名は泉鏡花。……貴女は？」
「……A」
子供は鏡花を夢の中の曖昧な存在ではなく個として認識し、呆然と呟いた。
「夢ではないなら、彼は」
言葉は不自然に途切れた。糸が切れるように意識を失った子供はあどけない顔を鏡花の胸の上で晒し、すうすうと寝息をたてている。
困った末、一先ずはこのぎらぎらと突き刺さる紫外線から逃れようと、鏡花は子供を横抱きにして日陰に移動する事にした。
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麗(プロフ) - 更新されるの楽しみにしています！ (2021年5月8日 12時) (
レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
篝火 - こ、更新だーー！！水を得た魚のように、認知して！から読み返して参ります！！！ (2020年11月3日 2時) (レス) id: 77c7a84bb1 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 篝火さん» 読んでくださる人がいた…！？ひぇ〜すみません放置して 好きとの言葉嬉しいです！ (2020年11月2日 0時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
篝火 - 昨日はハロウィンだったなと思い戻って参りました。好きな作品が止まっていて悲しいです… (2020年11月1日 20時) (レス) id: 77c7a84bb1 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 芥川さんが幼児ちゃんに貢ぐ……と云うより交流？お出掛け？合法的に会える？日ですね。横浜のハロウィンは平和で楽しそうな感じがします。 (2019年10月29日 23時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こめ | 作成日時：2019年8月25日 23時
