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「その子、かわいい?」
「うん。獪岳は、かわいいよ」
「あたしより?」
丸くて可愛い瞳が、ぱちぱちと瞬く。
Aが一番かわいいと思うのは獪岳だ。
Aが言い淀んでいると、文枝の瞳にみるみる水の膜が張った。
「いらない子のほうが、かわいいの?」
周りの大人が言っていることを覚えたのだろう。そうでなければ、幼子から猴廚蕕覆せ勠瓩箸いΩ斥佞麓然に出てこない。
「獪岳は要らない子じゃないよ。だから、獪岳も、お嬢さまも、同じくらいかわいいよ」
「うそ! その子の方がかわいいって思ってる!」
文枝は空のお椀をひっくり返し、わああ、と泣き叫びながら納戸から出ていった。
Aは追いかけることはできない。食べられない花と草が散らばった空間に、獪岳を置いていくことになるからだ。
お嬢さまは可愛らしい顔をしているけれど、気性のほうはときどき可愛くない時がある、とAはため息をついた。
「うー……」
「よしよし。びっくりしたねえ」
Aは背中でむずがる獪岳をあやしながら、ひっくり返ったお椀を戻して、その中に花草を集めて入れた。
■
ぐるるる、ぐる、と鳴るのは、獣のうなり声ではなく、Aの腹の音だ。
隣りですぴすぴと眠る獪岳。その反対隣りでは、Aと同じ下女のハツが「うるさぁい」と眠そうな声で言った。
「晩ごはん抜きって、こんなにキツかったのね。忘れてたわ」
「あのワガママお嬢さま泣かせるから……」
お客様がお帰りになったと聞き、獪岳を連れて納戸を出たAは、家の奥方に呼び出された。
Aが文枝に手を上げたらしい。もちろんAには覚えのない話だ。
憤慨する奥方の隣には、少しバツが悪そうな文枝が座っていた。
奥方からえらく叱られたAは、手の甲をムチで叩かれたあと、夕餉抜きの罰を言い渡されたのだ。
そして今、Aはひもじい腹を抱えて寝具に潜り込むはめになった。
部屋の隅で眠るイネのいびきの方がうるさい気がしないでもないが、せめて腹の音をなんとかしようと、Aはのそのそと体を起こした。
「お水飲んでくる……」
「あ。坊も連れていってよ、あんたがいないと泣くんだから」
「うん……」
体温の高い獪岳の体をそっと持ち上げると、ふうふう温かい獪岳の吐息を頬に感じる。部屋中に敷き詰められた煎餅布団の隙間をぬって歩きながら、 Aは空腹を一瞬忘れて微笑んだ。
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契ゐと(プロフ) - ああ、可愛いがすぎる…獪岳が推しなのでこんな素敵な小説があって嬉しいです (2021年8月17日 12時) (レス) id: 86212c8490 (このIDを非表示/違反報告)
月狐(プロフ) - あぁあぁ!!!最高すぎます!!この小説の獪岳くんはめっちゃ可愛い。「獪岳嫌い」って人おるけど、私は大好きすぎてやばいレベルです。獪岳くん好きか他にもいて良かった…。更新待ってます!!! (2020年12月26日 15時) (レス) id: 8c0c53f143 (このIDを非表示/違反報告)
善逸、獪岳くんしか勝たんよ~。 - 獪岳推しです♪可愛い過ぎる!死ぬよ死ぬ! うーとかさ、とにかく獪岳の全てが可愛いから。大人になった今はクソイケメン過ぎて辛い!早く続きお願いします!獪岳が好きな理由分かります (2020年11月11日 22時) (レス) id: b6d5995114 (このIDを非表示/違反報告)
マナ - 獪岳の成長を読みながら見守っていきます(笑)更新楽しみにしています!頑張って下さい! (2020年10月26日 16時) (レス) id: e03751a58e (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - マナさん» マナさん、コメントありがとうございます!似てますかね…(意識してなかった)人から指摘されて気づくこともあるので嬉しいです!2日に1度くらいのペースで更新しますのでお付き合い頂ければ幸いです(*´ω`*) (2020年10月24日 11時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめ(元団子) | 作成日時:2020年10月19日 23時