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芥川は瞼を上げた。割れていた筈の横窓には木板が打ち付けられ、埃が積もっていた筈の床はある程度磨き上げられていた。ステンドグラスは厚い布で覆い隠されている。

異能で複製した空間か、と直感し、芥川は此方をじっと見つめていた子供を抱き上げた。女は気力を失ったように床にずるずると座り込んでいる。


「無事か」

「あい」

「迎えが遅くなった」

「むー」


子供はぎゅっと芥川の胸に顔を埋めた。此奴を取り返せばもう用はない。芥川が女の方を振り返ろうとした時、大人びた少女の声が響いた。


「おモチちゃん、その人がお父さん?」


ふと芥川が前方を見遣れば、年齢の違う、四人の子ども達が横に並んで芥川と子供を見つめていた。「うん」子供が頷けば、彼等は安心したように微笑んで目を細めた。


「良かったねえ」

「おー、良かったなぁ」

「よかったの」

「良かったですね」




『『『『お家に帰れて』』』』



見開かれた四つの双眸は空洞だ。芥川は子供を確りと抱え、姿勢を低く構えて周囲を見回した。長椅子の下から、柱の影から、ずるずると這い出るものがある。彼等は皆一様に裸で、空洞の腹から覗く肋骨や背骨を晒しながら女の元に這って行った。



『お姉ぇちゃああん』


蝋のように白い幼い手が女の足首を掴んだ。「ひいぃ、」女は喉の奥から引き攣った声を出し、その手を蹴り上げる。それでも手は後から後から伸び、女の体に纏わり付いた。


『私たち、不幸なんかじゃなかったよ』

『痛いイタイいたい!』

『ぼくの体かえしてよぉ』


「ごめんなさいごめんなさい! 知らなかった、何も知らなかったの、私はあなた達の為に、自分は良い事をしてると思って、嫌……許して、いや、嫌!!」


流す血液すら搾り取られた子ども達の体は芥川を素通りして波のように真っ直ぐ女へと向かって行く。芥川は無表情で悲鳴を上げる女を見つめた。


「兄ちゃん、そいつ連れて帰りなよ」


少年が扉を指差しながら言う。「もうすぐ此処は消えるからさ」


「あの扉からなら出られるの」

「大丈夫、ぼく達が外に繋げましたから。そのくらいの力はあるんです」


営利目的の児童誘拐は、この世界では決して珍しい事ではない。幼年期から少年期を貧民街で過ごした芥川は、人身売買で利益を得る彼等の手段を、痛い程理解していた。


「元気でね」年長の少女が子供の手を握って振る。子供は芥川の腕の中でその手を握り返した。

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ロト - こめ(元団子)さん» こめさん、ありがとうございます!芥川兄妹と幼児ちゃんがベビーカステラもぐもぐしながら帰るのを想像したらほのぼので悶えました(笑) (2019年8月31日 17時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
月華(プロフ) - こめ(元団子)さん» またリクします!「任務を頑張る芥川さんの為に、銀ちゃんに手伝ってもらいながら、夢主ちゃんがご飯を作る」というお話をお願いします! (2019年8月27日 12時) (レス) id: 59746b99e9 (このIDを非表示/違反報告)
月華(プロフ) - こめ(元団子)さん» こめさん、リクありがとうです!知らない人から食べ物を貰うのは良くないって、本当に思いました。農薬入りのお菓子、怖すぎる・・!夢主ちゃんが食べなくて良かった〜! (2019年8月27日 12時) (レス) id: 59746b99e9 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - ダークアリスさん» 了解です! リクありがとうございます〜 (2019年8月27日 12時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 月華さん» リクありがとうです! 書きましたけど人のじっとりとした悪意の話に…ww (2019年8月27日 12時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:こめ | 作成日時:2019年6月23日 22時

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