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珍しく子供を膝に乗せてやった芥川は、異能を使って衣服をするすると伸ばした。変化自在なそれは二匹の黒猫を象り、子供の前でゆらゆらと動く。幼い手が触れようと伸ばされると寸で避けてしまった。
芥川は微かに口角を上げ、吐息で笑った。
「触れない方が善い。何時牙を剥くかしらんぞ」
「がおー」
「そうだな」
芥川の指先が子供の頭を撫でる。子供は腹の上に重ねられた芥川の片手を掴んで弄び始めた。芥川はされるがままだ。
「お前は何故僕と共に居たがる。此方で育ったとて、お前を待つのは一切の安息も許されぬ闇だ。弱ければ死ぬ、名が上がれば命を狙われるようにもなる。何故お前は──」
独り言のように呟かれる低い声は徐々に不明瞭になる。子供の視界は墨を水に垂らしたように徐々に霞んでいった。
「おモチちゃん!」
視界いっぱいに写るぬいぐるみ。子供は暫く考えた後、迫るふわふわの毛並を手で押し退け、ぼんやりとした瞳で体を起こした。「おモチちゃん起きたのー」女児特有の高い声が甘えたように引き伸ばされる。最年長の少女はその頭を撫でてから言った。
「おはよう。……って言っても、今が何時かわからないけど」
「おは……」
子供はゆっくりと周囲を見回し、そこが何処であるか理解した。寝台代わりの長椅子は固く冷たい。毛布代わりの大きな上着がずり落ち、子供は初めてその存在に気が付いた。
先程まで寝そべっていた長椅子から飛び降り、己の体に掛けられていた上着を掴む。子供はそれを一人の少年の所まで持っていった。
「……何だよ」
「おなか、あったかかった」
ありがと。子供がそう言って上着を差し出すと、少年はそれをひったくるように受け取りそっぽを向いた。その耳は紅く染まっている。
「まなちゃん、さとくん照れてるの」
「わあ、本当だねぇミチちゃん。……キモっ」
「いやそこォ! 聞こえるようにキモって言うなよ!」
□□□
「ぼく達ねぇ、ずっと待ってるんですよ」
「なにを?」
子供は首を傾げた。「主語がないとわかりませんよね、ごめんなさい!」と気弱そうな少年は慌てて謝った。
「あのお姉さんを怒ってくれる人を待ってるんです」
「こらーって?」
「そうそう」
少年は頷き、「あの人はぼく達の言い分なんて聞いてくれませんから」と悲しそうに零した。
「貴方のしている事は決して正しくはないと、そう現実を突きつけてくれる誰かを。そうして彼女が動揺した時、この空間は崩れる」
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ロト - こめ(元団子)さん» こめさん、ありがとうございます!芥川兄妹と幼児ちゃんがベビーカステラもぐもぐしながら帰るのを想像したらほのぼので悶えました(笑) (2019年8月31日 17時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
月華(プロフ) - こめ(元団子)さん» またリクします!「任務を頑張る芥川さんの為に、銀ちゃんに手伝ってもらいながら、夢主ちゃんがご飯を作る」というお話をお願いします! (2019年8月27日 12時) (レス) id: 59746b99e9 (このIDを非表示/違反報告)
月華(プロフ) - こめ(元団子)さん» こめさん、リクありがとうです!知らない人から食べ物を貰うのは良くないって、本当に思いました。農薬入りのお菓子、怖すぎる・・!夢主ちゃんが食べなくて良かった〜! (2019年8月27日 12時) (レス) id: 59746b99e9 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - ダークアリスさん» 了解です! リクありがとうございます〜 (2019年8月27日 12時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 月華さん» リクありがとうです! 書きましたけど人のじっとりとした悪意の話に…ww (2019年8月27日 12時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめ | 作成日時:2019年6月23日 22時