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おはよう さよなら ページ40

目覚めた時、子供は一人だった。暗い部屋の中、もぞもぞと寝台から這い出るように足を床に下ろせば、足元のセンサーが作動し照明がついた。

ここは何処だっけかと寝惚け眼で考えていると、玄関の方で鍵が外される音がした。子供が其方に行くと、茶色の紙袋を片手に抱えたまま靴を脱ぐ芥川がおり、子供に「御早う」と声を掛けた。


「腹は空いてるか」


子供は切ない音をたてる自分の腹を見下ろし、こくりと頷いた。



□□□



「芥川さん、いま何時だ」

「……午前六時半」

「おはようっていい忘れてた。おはよう」

「ああ」


透き通る朝の日差しの代わりに不健康な白色の蛍光灯が照らす部屋で、子供は胡座を組んで蓋付きの容器に入った珈琲を飲む芥川を見た。
食卓等といった物もこの住処にはなく、子供と芥川は床に腰を下ろして食事をしていた。芥川が買ってきたピタパンのホットサンドの具はふわふわと湯気を立てている。

子供は自分の側に置かれた紙袋に視線を移した。中にはまだ幾つか軽食が残っているが、芥川はそれには手を付けようとしない。不思議に思って見ていると、子供がまだ食べ足りないのだと思ったのか、芥川は「好きな分を食べろ」と言った。


「多いなら残して構わぬ。僕が後で喰う」

「今は食べないのか?」

「ああ」


訊くと、芥川は朝食を摂らない主義らしい。それではこの食糧は私のために買ってきてくれた物なのか、と気付き、子供はむず痒いような気持ちになった。不快感はなく、不思議な心地よさだけが残る。


ついでに心配も残った。


「与謝野さんが朝食は一日の活力の源だから大事だと……」

「……」


芥川は子供が食べていたポテトを二、三本口に放り込み、珈琲で流し込むように嚥下した。食事と云うにはあまりに微量だが、子供の表情は安心した様に緩んだ。



□□□



結える事も忘れた黒髪がさらりと靡く。寝間着のまま外に飛び出したらしい鏡花に抱きしめられ、子供は申し訳なさそうに眉を下げた。


「心配した」

「ごめん」


橋の下を流れる川が朝日を反射し、時々ちかりと光った。眩しさから芥川は目を眇め、鏡花と子供の前に立った。

鏡花は芥川を睨むように見上げた。何故お前がこの子と共に居る、と問うような視線には答えず、芥川は子供の頭にぽんと手を乗せて言った。


「夢遊の気がある。次からは用心して見張れ」


「むゆう?」と首を傾げる子供、驚いたように目を見開く鏡花に背を向け、芥川はその場を後にした。

ノイローゼになりそう(国木田さんが)→←刻む秒針が憎く



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ロト - こめ(元団子)さん» お久しぶりです!最近わりと多忙でした…少し時間が空いてきたので見てみようと思えば結構更新されてて嬉しかったです!癒されました〜! (2019年8月25日 23時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - ロトさん» ロトさん! お久しぶりですね! そうです娘主は奔放な子供なので自由に遊び回っては国木田さんに叱られ 最終的には追いかけ回されますw (2019年8月25日 22時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 近所迷惑(社員寮)……つまり、国木田さんの胃痛が増すんですね分かります。 (2019年8月25日 1時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 来霧さん» やったー!ありがとうございます これからもお付き合いください! (2019年8月19日 2時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
来霧(プロフ) - 続きが!きになりすぎます!!応援していますー!頑張ってください! (2019年8月17日 0時) (レス) id: cc1c1fbc8a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:こめ | 作成日時:2019年6月22日 21時

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