午後八時から九時 ページ33
「駄目じゃあ。どれだけ調べても血縁は疎か、乳児期に世話をした人間も、目撃者も、何一つとして判らん」
ボサボサの短髪を掻き、草臥れた白ワイシャツの男はぼやくように告げた。その正面に腰を下ろしていた国木田は疲労しきった親友の顔を眺め、「花袋でも駄目か」と零した。
「戸籍のない貧民街の孤児にしろ、普通なら、何かしらその人間が生きてきた踪跡は出て来るものじゃ。現にほれ、ここには撫子と兄上殿の幼少期の記録が……うう、幼き頃の撫子の苦労を思うと涙が……」
「お前、幾ら岡惚れ相手だからといってそれは……」
「偶然手に入ったんじゃ！ 本当に偶然！」片思い相手の家に忍び込み、幼少期のアルバムを盗み見る行為にも等しいのではないか、という国木田の憐憫を察知し、花袋は慌てふためいた。
鏡花が連れ帰った子供について、兎に角何か少しでも情報が出たら寄越せ、と頼み込んだのが一週間ほど前。それから音沙汰がなく、歯噛みしていた国木田の元に花袋からの着信が届いたのが昨日だ。
国木田は何とか時間を確保し、此処──花袋の自宅に顔を出したという訳である。数日は掛かると軍警に見積もられたテロリストの制圧を半日で終わらせた甲斐はあった。
花袋は�犇Χ瑤き畫阿法�国木田と共に自宅を訪ねてきた社員の貌を想像しながら(新しく入社した鏡花と云う少女については、彼が女性が苦手である為に白い足袋と赤い着物の裾しか思い出せなかった)言った。
「他の社員の話によると、兄上殿はその児童を手元に置きたがっているようじゃ。最近の養護施設は戦後増加した孤児で何処も経営難……ここはいっそ、兄上殿に引き取って貰ってはどうかのう」
「馬鹿。奴はマフィアの危険人物だぞ。渡せる訳がない」
□□□
「あ、」
「む。探偵社の理想眼鏡」
花袋の家から戻る道中、国木田は芥川兄妹に遭遇した。仕事帰りなのか銀は髪を下ろしており、国木田に気が付くと静かに会釈した。芥川は無感情に国木田を見つめている。
「……敵対は互いの組織に禁じられているが」
敵意はなさそうなそれに、一応は警告する。「承知している」と抑揚のない声で答えた芥川の視線が下がり、国木田の腰の辺りを彷徨った。脈絡のない行動に身構えた国木田に芥川が問う。
「Aは居ないのか」
「あ、ああ」
「そうか……」
芥川の目が伏せられ、小さな溜息が聞こえた。心做しか落胆しているようにも見えるそれは、
「(残念がっている、のか……？ 奴が？)」
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ロト - こめ(元団子)さん» お久しぶりです！最近わりと多忙でした…少し時間が空いてきたので見てみようと思えば結構更新されてて嬉しかったです！癒されました〜！ (2019年8月25日 23時) (
レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - ロトさん» ロトさん！ お久しぶりですね！ そうです娘主は奔放な子供なので自由に遊び回っては国木田さんに叱られ 最終的には追いかけ回されますw (2019年8月25日 22時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 近所迷惑(社員寮)……つまり、国木田さんの胃痛が増すんですね分かります。 (2019年8月25日 1時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 来霧さん» やったー！ありがとうございます これからもお付き合いください！ (2019年8月19日 2時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
来霧(プロフ) - 続きが！きになりすぎます！！応援していますー！頑張ってください！ (2019年8月17日 0時) (レス) id: cc1c1fbc8a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こめ | 作成日時：2019年6月22日 21時
