ヒトでしたね ページ4
「弁解はあるか、小娘」
「ない。流石に遣り過ぎた」
「御免なさい」武器を取り上げられた鏡花は、床に正座をしたまま毅然と謝罪を述べた。もう一人の少女は鏡花を真似て隣に座っていた。帽巾は取り払われている。
国木田は床に大人しく座る二人の少女を仁王立ちで見下ろし、鏡花が連れてきた少女を視界の端で観察した。
歳は鏡花より三つか四つは下だろう。珍しい色の白髪は禿のように肩の高さで切り揃えられている。それは窓から差し込む陽光を反射し柔らかく輝いていた。鋭く涼やかな目元は、少女の造形が幼いながらも見る者に怜悧な印象を与えた。
それだけならば、ただの子供だ。
少女の顔立ちはある人物に酷似していた。
──指名手配犯、芥川龍之介に。
「……名は何と云うんだ」
「A。名字はわからない」
鏡花が子供の代わりに答えた。子供は固く口を噤み、鏡花の兵児帯の裾を握り締めている。この場においては鏡花にしか心を許していないらしく、国木田や谷崎とは目も合わせようとしない。
「何処で拾……会ッたの?」
谷崎が問う。鏡花は「大桟橋」と簡潔に答えた。
「海に落ちそうになっていた所を助けた」
「拍子で顔を見てしまい、それで連れ帰ったと云う訳か……」
鏡花が頷き、子供をそっと抱き締めた。上目遣いで哀願するような瞳を国木田に向ける。
「この子は記憶を無くして帰る場所も何もわからない。それでもマフィアの関係者として軍警に連れて行くの?」
ふと、子供の黒曜石のような瞳が己を見ている事に国木田は気付いた。話を聞く限り、子供は健忘を起こしているらしく、自分の名前以外は判らないそうだ。
「組合戦の為、我ら武装探偵社とポートマフィアは同盟及び停戦の条約を結んだ。マフィア構成員の関係者や身内を片端から通報していては同盟を反故にしたと看做されるだろう」
鏡花は蒼い瞳を瞬かせた。国木田の言わんとしている事を汲み取ろうとしているのだ。
「それに加え、其奴が芥川龍之介に偶々似ているだけの一般人である可能性も捨てきれん。此処は癪だが──太宰を頼る」
谷崎が国木田の意見に同意するように何度も頷いた。
「元マフィアの太宰さんならこの子の事も何か知ッてるかもしれませんね。今新しい死に方に挑戦してるらしいですけど……」
「今だけは彼奴を死なせるな! 連れて来い!」
「ハイ!」
慌しく外に駆けて行った二人の男を見送り、鏡花は黙りこくったままの子供の頭を撫でた。
179人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ロト - こめ(元団子)さん» お久しぶりです!最近わりと多忙でした…少し時間が空いてきたので見てみようと思えば結構更新されてて嬉しかったです!癒されました〜! (2019年8月25日 23時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - ロトさん» ロトさん! お久しぶりですね! そうです娘主は奔放な子供なので自由に遊び回っては国木田さんに叱られ 最終的には追いかけ回されますw (2019年8月25日 22時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 近所迷惑(社員寮)……つまり、国木田さんの胃痛が増すんですね分かります。 (2019年8月25日 1時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 来霧さん» やったー!ありがとうございます これからもお付き合いください! (2019年8月19日 2時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
来霧(プロフ) - 続きが!きになりすぎます!!応援していますー!頑張ってください! (2019年8月17日 0時) (レス) id: cc1c1fbc8a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:こめ | 作成日時:2019年6月22日 21時