▼縺薙l縺ッ螟「縺 ページ27
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二人掛けの席を向かい合わせにした四人掛けのボックスが通路の両側に並んでいる車輌の、とある一角でナオミは目を覚ました。それから彼女は寄り掛かっていた与謝野の肩からそっと身を起こした。与謝野は頬杖をついて眠っている。
ナオミの向かいには子供が座っており、退屈そうに足を揺らしている。その隣は、和装姿の佇まいが抜けきらず背筋をしゃんと伸ばしたまま膝の上で手を重ね、俯き加減に瞼を閉じている鏡花だ。
ナオミが軽く伸びをする。生糸のように艶やかな黒髪が一房、肩から胸元に滑り落ちた。
「私、どのくらい寝ていたかしら……」
「知らん」
突き放すような物言いに、ナオミは長い睫毛を瞬かせた。子供の愛想のない事は知っていたが、最近ではもう少し喋るようになっていたのに。
驚くナオミを放置し、子供は座席からぽんと飛び下りて通路の奥へと歩き出した。
「Aちゃん、どちらへ──」
腰を半端に上げた所で、ナオミの意識はやおら覚醒し、ある違和を烈に感じ取った。
眠りに落ちる前は緩やかだが確かに響き続けていた筈のエンジン音、走行音が一切なくなっている。
通路の車内灯は見渡す限り消えており、全てが暗がりに沈みこんでいた。
「与謝野さ……」
ナオミは何時でも頼りになる歳上の女性を揺り起こそうとして、隣に誰も居ない事に気付いた。向かいを見ると鏡花も居ない。特異な状況に置かれている事を悟ったナオミは先を歩く子供の背中を追って、その手を掴んだ。
「一人で行っては駄目。何が起こっているのか不明なうちは、別行動は危険ですわ」
「一人はだめなのか?」子供は無表情でナオミを見上げた。薄暗い空間で、子供の白目はぼんやり発光しているように見える。
車輌の奥から、乾いた風が吹いた。風音に混じって、ドォン、ドォン、と太鼓を叩くような強い音が遠くから聞こえてくる。
「だがあの男は──」
子供が何かを言いかけた刹那、何の前触れもなく、人工的な光が車両内を舐めるように這った。蜘蛛の巣が張った網棚、割れた蛍光灯、千切れた吊革、埃と紙くずが積もった座席と床、それらを不規則に照らした後、光は子供を捉えた。
眩しそうに目を瞑った子供を、ナオミは自分の方に抱き寄せ庇った。光源に居るのは一人の男だ。黒外套に身を包んだ男は手に持った懐中電灯でこちらを照らしていた。
「 」
ナオミの腕の中で、子供の口が嬉しそうにその名を紡いだ、ように見えた。
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ロト - こめ(元団子)さん» お久しぶりです!最近わりと多忙でした…少し時間が空いてきたので見てみようと思えば結構更新されてて嬉しかったです!癒されました〜! (2019年8月25日 23時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - ロトさん» ロトさん! お久しぶりですね! そうです娘主は奔放な子供なので自由に遊び回っては国木田さんに叱られ 最終的には追いかけ回されますw (2019年8月25日 22時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 近所迷惑(社員寮)……つまり、国木田さんの胃痛が増すんですね分かります。 (2019年8月25日 1時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 来霧さん» やったー!ありがとうございます これからもお付き合いください! (2019年8月19日 2時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
来霧(プロフ) - 続きが!きになりすぎます!!応援していますー!頑張ってください! (2019年8月17日 0時) (レス) id: cc1c1fbc8a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめ | 作成日時:2019年6月22日 21時