まが犬とその妹 ページ23
「兄さん、ごめんね、買い物付き合わせちゃって」
「気にするな」
芥川は荷物を抱え直しながら言った。口では謝りつつも久しぶりに兄妹での外出に喜んでいた銀は薄く笑む。仕事柄、二人の休暇が合うことは滅多にないのだ。
「そろそろ昼時だが、昼食はどうする」
芥川は腕時計を見遣り、銀に訊ねた。「行ってみたいお店があるの」と銀は芥川より一歩先を歩き出した。
ある服屋のマネキンの前を通り掛かった時、芥川は急に歩みを止めた。マネキンの服装はポロシャツにハーフパンツ、ゴルフにでも出かけそうな格好だ。
兄さんの服の趣味には程遠いはず。銀が首を傾げた刹那、芥川は銀を振り返り見て、手に持っていた荷物を銀に預けた。
「すまぬ。少しの間持っていてくれ」
「別に善いけど……」
そもそも自分の荷物であるし、女とは云え鍛錬は積んでいるのだから、この程度の重量は負担でもない。銀が芥川の行動を伺っていると、なんと芥川はマネキンの足下に向かって話しかけた。
「斯様な場所で何をしている」
「……隠れてるんだ」
返事があった。
休日で多少の気の緩みがあったにしても、気配探知に長けている銀はそこに人が居る事に気が付けなかった。静かに驚く銀に構う事なく、芥川は膝を抱えて座る子供らしき人影に何事か訊ねている。
「助けてくれ芥川さん!」
突然子供は俯いていた顔を上げ、飛び上がって芥川の胴に抱きついた。芥川は受け止めるつもりなのか引き剥がすつもりなのか、何も無い空間に手を中途半端に出したまま固まっている。
芥川の肩越しに、銀はその子供と目が合った。同じ色の瞳が同時に瞬く。
「……い、生き別れの、妹……?」
子供は兄にそっくりだった。
□□□
「此奴も同席して構わないか」という伺いに何だかよくわからないまま頷き、銀は向かい合って兄の隣に座る子供を眺めた。
顔は兄に似ている。きっと兄を幼くして性別を変えたらこんな感じの子になるだろう。
Aと名乗った子供は、真新しいブラウスとスカートを着ているにも関わらず、その上から草臥れた外套を着ていた。大きすぎる外套の裾と袖は、一目で寸法が合っていないのだとわかる。子供は銀の視線に気付くと居心地悪そうに外套の前を合わせた。
「脚が心もとない。こんな布面積で本当に皮膚を守れるのか?」
「捲って見せなくていい」
不安げに此方を見上げる子供を、芥川は落ち着き払って窘めた。内心は非常に慌てていたと云う。
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ロト - こめ(元団子)さん» お久しぶりです!最近わりと多忙でした…少し時間が空いてきたので見てみようと思えば結構更新されてて嬉しかったです!癒されました〜! (2019年8月25日 23時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - ロトさん» ロトさん! お久しぶりですね! そうです娘主は奔放な子供なので自由に遊び回っては国木田さんに叱られ 最終的には追いかけ回されますw (2019年8月25日 22時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 近所迷惑(社員寮)……つまり、国木田さんの胃痛が増すんですね分かります。 (2019年8月25日 1時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 来霧さん» やったー!ありがとうございます これからもお付き合いください! (2019年8月19日 2時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
来霧(プロフ) - 続きが!きになりすぎます!!応援していますー!頑張ってください! (2019年8月17日 0時) (レス) id: cc1c1fbc8a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめ | 作成日時:2019年6月22日 21時