転ぶなよ ページ18
「早く鏡花に見せたい」
社への帰り道、紙袋を抱えた子供は国木田の先を歩いていた。その足取りは早く軽い。
「転ぶなよ小娘。急がば回れと云う諺を知らんのか」
そう声を掛けつつ、その後を他の荷物を持った国木田が追う。子供は急に足を止め、国木田を振り返った。
「もう一度言ってみてくれ」
「……? 『急がば回れ』」
「その前」
「『転ぶなよ』と言ったな」
国木田が子供に追いついた。子供は「誰かに同じ事を云われた気がする」と呟いた。国木田の表情がパッと明るくなる。
「記憶が戻ったのか!」
「いいや……」
子供は特に喜ぶ様子も沈んだ様子もなく、その後は国木田の隣に並んで黙って歩き続けた。
□□□
転んだ。上の空で歩いていて盛大に。
国木田もまさか舗装された道で転ばれるとは思っていなかったので、支えるのも間に合わず、子供は膝を擦り剥いたが、何事も無かったように立ち上がった。
「……平気か」
「ああ」
「血が出ているぞ」
「ああ」
「痛みを堪える歩き方をしているが」
「気のせいだ。…………痛っ」
「今小さく『痛っ』と言っただろう! 聞こえてたからな!」
国木田は通り掛かった公園の水道で血の滲む傷口を濯いでやり、独歩吟各で作り出したガーゼを貼ってやった。
「与謝野女医には、もう治療は済ませてあるので大丈夫、と答えるのだぞ。善いか絶対にだ。さあ繰り返せ」
「『もう治療は済ませたので大丈夫です』」
「よーし良い子だ」
擦り傷程度で解体され、一生心に残る傷でも負ってしまったら可哀想だ。国木田は真剣に念押しした。
側に置いていた荷物を手首に通し、国木田は子供に背を向けてしゃがんだ。「何してるんだ」子供の不思議そうな声が国木田の背中を打つ。
「乗れ。背負ってやる」
逡巡するような気配の後、背中に感じる重みを確認し、国木田は立ち上がって歩き出した。
「国木田さん」
「何だ。この状態では走れんぞ」
「貴方と私は他人だ。なのに何故優しい」
「……俺は優しい人間ではない。現に、禄な所ではないと知っていてお前を孤児院に預けようとしている。身寄りのない子どもを片端から養ってやる事は出来ないからだ」
「でも優しい。優しくて温かい」
子供は国木田の広い背中に片頬を付け、僅かな振動と共に流れる景色を眺めた。そこから見えるものは違っても、かつて誰かに同じことをされた気がするのだ。
「ありがとう、国木田さん」
国木田は何も言わなかった。
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ロト - こめ(元団子)さん» お久しぶりです!最近わりと多忙でした…少し時間が空いてきたので見てみようと思えば結構更新されてて嬉しかったです!癒されました〜! (2019年8月25日 23時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - ロトさん» ロトさん! お久しぶりですね! そうです娘主は奔放な子供なので自由に遊び回っては国木田さんに叱られ 最終的には追いかけ回されますw (2019年8月25日 22時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 近所迷惑(社員寮)……つまり、国木田さんの胃痛が増すんですね分かります。 (2019年8月25日 1時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 来霧さん» やったー!ありがとうございます これからもお付き合いください! (2019年8月19日 2時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
来霧(プロフ) - 続きが!きになりすぎます!!応援していますー!頑張ってください! (2019年8月17日 0時) (レス) id: cc1c1fbc8a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめ | 作成日時:2019年6月22日 21時