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お初にお目にかかる? ページ10

金持ちの飼い猫らしい。鏡花の持つ写真には、まだまだ成猫とは言い難い黒猫が写っている。伸び伸びと寝転がり、一目で人間に大切にされているとわかる猫だ。

鏡花と子供は公園のベンチに腰掛け、頭を寄せあって写真を眺めた。鏡花は子供が読み書きが出来ない可能性も考慮し、書類に書かれた事項を読み上げた。


「足袋を履いているように白い爪先が特徴」

「首の下も白いな」

「クラバットみたい」

「かわいい」

「うん」


そこで鏡花はハッとした。ただ癒されるために猫の写真を見ている訳ではない。この猫を無事に飼い主の所まで届ける事が自分に課せられた任務だ。

鏡花は書類を捲り、詳細をもう一度確認した。

生後半年の雄猫。名前はマロン。庭に面した窓を開けた隙に外に逃げてしまったとの事。


「鏡花」

「何?」

「私は何をしたらいい」

「貴方は私と一緒に居るだけでいい。でもその帽巾はできる限り取らないで」



□□□



昼、たまたま通り掛かった公園の前で、変装の為の色の濃い遮光眼鏡を掛けた芥川龍之介は珍しく困り果てていた。


「退け、猫。僕の道を阻むな」

「にゃーん」

「『にゃーん』……? それは了承の意か。でなくば挽肉にするぞ」


藪からひょっこり現れた黒猫が芥川の脚に擦り寄り、歩行を阻むのだ。芥川は口に手を当て、咳を数度繰り返しながら猫を撒く方法を考えていた。

六ヶ月間の不殺の約束がある為に他者の命を奪う事はできない。そもそも獣畜生をみだりに殺す趣味は芥川にはなかった。

公園の方からは子ども達の喧騒が聞こえてくる。嫌でも耳に届くそれは芥川の思考を邪魔した。己に無関係であるが故、陽の雰囲気は苦手だ。

忌々しい気分で足元の猫を眺め、眉を顰めていると、ふと芥川の視界の端に小さな靴が写った。

大きな外套を頭から被り、顔は見えない。子供は尚も喉を鳴らしながら芥川の脛に頭を擦り付ける黒猫をまじまじと眺めている。


「そこの童。この猫を僕から引き離せ」


返事はない。不審に思った芥川が、「おい」と声を掛けると子供は一言呟いた。


「栗ご飯」

「は?」


奇妙な沈黙が二人の間に満ちた。それから間もなく、静かに藪を掻き分ける音と、落ち着いた少女の声が響いた。


「A、私から離れたら駄目……あ、」

「……久しいな」


赤い和装姿の少女──鏡花は無表情で芥川を見つめ、芥川も逸らす理由はないので鏡花を見つめ返した。散々芥川に擦り寄っていた猫はあっさりと逃げた。

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ロト - こめ(元団子)さん» お久しぶりです!最近わりと多忙でした…少し時間が空いてきたので見てみようと思えば結構更新されてて嬉しかったです!癒されました〜! (2019年8月25日 23時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - ロトさん» ロトさん! お久しぶりですね! そうです娘主は奔放な子供なので自由に遊び回っては国木田さんに叱られ 最終的には追いかけ回されますw (2019年8月25日 22時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 近所迷惑(社員寮)……つまり、国木田さんの胃痛が増すんですね分かります。 (2019年8月25日 1時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 来霧さん» やったー!ありがとうございます これからもお付き合いください! (2019年8月19日 2時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
来霧(プロフ) - 続きが!きになりすぎます!!応援していますー!頑張ってください! (2019年8月17日 0時) (レス) id: cc1c1fbc8a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:こめ | 作成日時:2019年6月22日 21時

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