午前十時から午後二時 ページ30
「Aは?」
「彼処で眠っていますよ」
賢治に教えられ、鏡花は何時もならば太宰が長い脚を持て余して昼寝している筈のソファに視線をやった。其処には小さく体を丸めた子供が静かに寝息をたてている。
「そこは私の定位置なのに」
「勝手に決めるな」
残念そうに呟いた太宰の頭を国木田が叩く。比較的安全な任務が回ってきたので子供も連れて行こうと思っていた鏡花は、眠っているなら無理に起こすこともないだろうと判断し、一人で次の任務先に向かった。
□□□
「……」
子供は目を覚まし、感じる息苦しさを不思議に思って上体をのそりと起こした。子供の体を覆っていた布──国木田の上衣が床にずり落ちる。それをぼやぼやした意識のまま拾い上げると、今度は与謝野の膝掛けが落ち、それも拾うと頭から乱歩のハンチング帽がぱさりと落ちた。
何故か無人の事務所にて、子供は息苦しさの正体と思しき衣類の数々を畳んでソファに並べつつ、自身が昼寝をする直前の会話を思い出していた。
『冷房が効きすぎて寒い』
『何? では温度を上げ……』
『えー! 僕は暑いんだけど』
『乱歩さんがそう仰るなら仕方がない。A、お前は我慢しろ』
乱歩さんがそうおっしゃるなら仕方ないのか、と子供は納得し、徐々にやってきた眠気に抗わずソファで横になった訳だが、よほど寒そうに見えたのだろうか、ありとあらゆる布類が体に被せられていた。
「おはよう、いやこんにちは? うーん、どっちでもいっか!」
溌剌とした声と共に、着崩したスーツの青年が事務所に足を踏み入れる。子供は青年──乱歩を見て、それから社内を見回した。乱歩はそんな子供の様子を眺め、痺れを切らしたように子供の前に立ちはだかった。
「鈍いなあ。君に言ってるんだよ、おはよう!」
「……おはようございます?」
「はい、僕の帽子頂戴」乱歩は子供の手からひょいと帽子を取り上げ、何故か子供の頭に被せ直した。乱歩の挙動を疑問に思い乍、子供は訊ねた。
「他の人は?」
「ん? ああ、すぐ其処の郵便局でテロリストが立て篭もっててさ、事務所に居た奴らは皆そっちの制圧に行ってるよ」
「乱歩さんは行かなくていいのか?」
「超推理で爆弾の解除番号を割り出したから、僕の仕事はもう終わり。荒事は管轄外だ。……あーあ、やだやだ、何でこんな暑い中外に出なくちゃあいけないんだろう」
「と云うことで」乱歩は子供に向き直り、爛漫に笑った。
「僕はかき氷を所望する!」
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ロト - こめ(元団子)さん» お久しぶりです!最近わりと多忙でした…少し時間が空いてきたので見てみようと思えば結構更新されてて嬉しかったです!癒されました〜! (2019年8月25日 23時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - ロトさん» ロトさん! お久しぶりですね! そうです娘主は奔放な子供なので自由に遊び回っては国木田さんに叱られ 最終的には追いかけ回されますw (2019年8月25日 22時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 近所迷惑(社員寮)……つまり、国木田さんの胃痛が増すんですね分かります。 (2019年8月25日 1時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 来霧さん» やったー!ありがとうございます これからもお付き合いください! (2019年8月19日 2時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
来霧(プロフ) - 続きが!きになりすぎます!!応援していますー!頑張ってください! (2019年8月17日 0時) (レス) id: cc1c1fbc8a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめ | 作成日時:2019年6月22日 21時