16話 ページ16
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春先でも、日が暮れ出してから夜が訪れる迄は早かった。
「……ここらで夜が明けるのを待つ」
そう言って尾形は木を背にし、どかっと座る。それを見て二階堂は尾形の向かい側にある木の方へと腰を下ろす。
Aは、といえば──まだ座らずにいた。
繋がれた縄の先を持つのは二階堂でその隣に座ればいいのだが、尾形側の方が雪のかぶっていない場所が多くあったからだ。
いくら外套を纏っていても雪の上に直で座れば余計に冷えてしまうだろう。
なんとなしに不服だったが言葉に出すしかなかった。
「──二階堂、そいつの縄を貸せ。……こっちの方が雪は少ない……Aは俺の隣に座れ」
Aが言うより早く、尾形が口に出していた。思ってもいなかった事に豆鉄砲を食らったようになる。
(伊達に上官やってない、か)
そうやって周りを見ている事に少しだけ感心しつつも、もっと早くに言えと難癖つけていた。
まだ第七師団からの追っ手にも出くわしてないこんなところで、人質の具合が悪くなり移動に支障がでれば困るのは尾形達だろう、といった所だ。
捨て置くのも一つの手だが、実際尾形は今後のことを考えて隣へとAを座らせた。となればAが難癖をつけるのも仕方ないのかもしれない。
──そしてAが尾形の隣に座り、暫くした頃。
「火を起こしていいですか……?」
二階堂が寒さに震えた声で言う。
「居場所を知らせるようなものだ。闇に紛れて襲われるぞ」
「上等ですよッ、探す手間が省ける……」
「……こいつを見習え」
そう言って尾形は隣にいるAに目をやった。
(別に見習うものでもないんだがな……)
Aは襟巻きで顔を覆い、亀の如くうずくまるようにして寒さを凌いでいた。“どうせ火なんて起こさせやしないだろう”という諦めからAをそうさせていただけだった。
「……うんざりだ。クソ寒い北海道も屯田兵も何もかも……故郷の……静岡に帰りたい」
二階堂の悲痛な呟きは、凍てつく闇にすぐさま覆われた。
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ra(プロフ) - プスメラウィッチさん» しがない字書きにコメントありがとうございます🙇とても元気をもらえました。実はこのサイトで文章トレスされてしまっていたようで、もうここには投稿しない方針で考えています。pixi⚫︎の方などに投稿するか検討しているのでその際はお知らせいたします (1月31日 22時) (レス) id: e3ec8bd41f (このIDを非表示/違反報告)
プスメラウィッチ(プロフ) - 続きの更新頑張って下さいね😆応援しています。 (1月31日 15時) (レス) @page26 id: b10205217f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ra | 作成日時:2021年5月13日 1時