12話 ページ12
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そして尾形、二階堂に連れられAも家を出る。
見送る谷垣は何も言わず心配そうにしていた。
「おい、二階堂。こいつの両手を縛っておけ」
二階堂は無表情のまま、縄でAの手首を縛り始めた。荒い縄が皮膚に擦れてちくちくとした痛みを感じる。
「尾形。ここまでしなくていいだろう」
尾形から確かに「人質になれ」と聞いたが、拘束されるとまで思っておらずAは「本当に盾にするつもりか」と訴えた。
「“上等兵”を付けろ」
「……断る。私の扱いは鶴見中尉の私兵に過ぎない……尾形は鶴見中尉の小隊から離叛したという扱いだ。付けなくていいと思うが」
「鶴見の小隊から抜けた“だけ”だろう……この状況で気の強い奴だな」
「それはどうも」
「まぁいい、歩け」
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そうして一行はしばらく無言で歩いていた。
やはりAの拘束は解かれることはなく、繋がれた縄は二階堂が持っている。
時折、ピンと張る縄のちくりとした痛みに苛ついたが次第に気にならなくなっていた。3人の雪を踏む音だけがはっきりと聞こえる。
この状況でAが考えに耽ることは必然的だった。
尾形はなぜ父の死因をチラつかせ誘ったのか。そして鶴見中尉はなぜあの時点で、尾形がAに接触し釣り出す事まで想定できていたのか。
どちらの視点からも裏切ることの可能性を考慮していないとは思えなかった。両者の真意は何なのか、連鎖的に増える謎。どれだけ考えてもやはり堂々巡りであった。
尾形らの足が止まる。
崖の下に目をやればアイヌの村が見えた。さっきまで居たアイヌの家が随分と小さくなったように思う。
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ra(プロフ) - プスメラウィッチさん» しがない字書きにコメントありがとうございます🙇とても元気をもらえました。実はこのサイトで文章トレスされてしまっていたようで、もうここには投稿しない方針で考えています。pixi⚫︎の方などに投稿するか検討しているのでその際はお知らせいたします (1月31日 22時) (レス) id: e3ec8bd41f (このIDを非表示/違反報告)
プスメラウィッチ(プロフ) - 続きの更新頑張って下さいね😆応援しています。 (1月31日 15時) (レス) @page26 id: b10205217f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ra | 作成日時:2021年5月13日 1時