鍾愛 19 ページ20
「手前からの作戦を最初に聞いた時は出張先で落ち着かなかったんだからな」
コース料理を堪能した後、酔い覚ましに暫く店の付近を散歩する。夜の風が肌を撫でて気持ち良い。
『組織に貢献できるのならと思っての行動でした』
「ッたく、よりによって太宰の狗だと?もっとアイツを警戒しろ」
『…太宰さんは、私の事なんて何とも思ってないですよ』
つい口走ってしまった。もうこれなら太宰さんのことで悩んでいるも同然だろう。視線を落とすと中也さんの呆れにも似た溜息が聞こえた。
「…あのな」
「手前は知らねェと思うが、太宰は自分の部屋に他人を入れるのが大嫌いだし、独占欲強いから自分以外に手前を下の名で呼ぶ事絶ッ対許してなかったぜ」
『え…』
「あの美人補佐の西野ですら部屋入ると嫌な顔してたからな彼奴。歪んでいたがな、彼奴なりの愛情表現だったんだよ」
『そう、だったんですか…』
四年前の言葉に嘘偽りは無く、超ツンデレなだけで本当に私の事を一目置いてくれていたことを今更知った。
…でも四年前は四年前だ。私たちの間には四年間の空白がある。その数字は大きく人間関係において、特に男女の恋事情なんてとてつもなく脆い。
中也さんが立ち止まり、何となく異変を感じて彼の方を見る。妙に真剣な眼差しに緊張する。
「…だから俺はそんな彼奴が許せねェ。
なァ、俺なら手前を一人にするような事は絶対しないし泣かせるようなこともしない
…俺に、しねェか」
私の方を向いた中也さんの蒼眼があまりにもはっきりと此方を見据えていた。そして、彼の口から放たれたとんでもない言葉に私は息を呑んだ。
『……中也、さん?』
「単刀直入に云う。手前の事が好きだ」
驚いて、言葉が出なかった。樋口ちゃんに茶化される事はあったものの彼の事を意識した事はなかった。だって、そう。彼は上司で…
『…お気持ち、凄く有難いです。でも、まだ私には返事ができません。少し時間をください』
「…嗚呼。待ってるぜ」
精一杯の返事だった。何故か振ることが出来なかったのは、太宰さんとの関係に脈が無いと気付いてしまったこと。そして自分を想ってくれる人間の気持ちを考える前に無下にする事はできなかったからである。
目を見ればわかった。彼は本気だ。
中也さんは優しいし気遣いもできる。気心知れてるし何より一緒にいてとても安心するのだ。
(本当に、どうすればいいの…)
今晩は眠れぬ夜になるだろうと覚悟した。
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あい - ??? (1月29日 23時) (レス) id: 59cf03caf8 (このIDを非表示/違反報告)
あい - 更新中でしょうか?ワクワクです (1月29日 20時) (レス) @page43 id: 59cf03caf8 (このIDを非表示/違反報告)
時雨 - これ太宰さんどうなっちゃうんでしょうか……あと文才ご凄くありますね! (1月22日 11時) (レス) @page31 id: 68fda9e290 (このIDを非表示/違反報告)
悠 - こういう系あまり読み続けられないんですがこれは一気に読めちゃいました…!文章能力すごい高いですね…尊敬…更新待ってます!頑張ってください! (8月26日 15時) (レス) id: efb8355445 (このIDを非表示/違反報告)
ライム - こういう物語って大体中也ポジの人は振られちゃうので、この展開メッチャ好きです!私が中也推しなのもあるかもですけど、wとにかく更新楽しみにしてます! (2023年3月25日 3時) (レス) @page42 id: e7904a37c4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:桜雪 | 作成日時:2020年1月25日 21時