鍾愛 18 ページ19
「…全くわからねェ」
良さとやらが。
自分とは対極的に何かを熟考するそぶりで目の前の造形品に見入っているA。
見れば見るほどよくわからない。この位だったら俺にでも描けるし作れそうだ。
「なァ、面白いのか?此れ」
『はい!連れて来てくださりありがとうございます』
「お、おうよ…」
その後も数々の謎作品と対峙すること1時間半。大して広さもないワンフロアの会場を回るのにこれだけ時間がかかるというのは実に、Aかそれだけよく見て回ったことを物語っていた。
『美術館なんて来るの久しぶりでした。本当にありがとうございます』
「手前が楽しめたなら良かったんだが…俺には芸術っつーものは理解できねェな。小難しくてわからねェ」
『ふふ、それでいいと思いますよ。アートなんてものは自己満足ですからね。作者の意図だとか、正解とかそう云うものはなくて人の感じ方それぞれもその人の表現ですから』
珍しく楽しそうに饒舌になるAに選択は正解だったと安堵する反面、素直に"可愛い"と云う気持ちが産まれた。
Aの印象を決して崩さない落ち着いた服装、肩につくまで伸びた髪から覗く愛らしい笑顔。一見地味で大人しいのに、こんなにも魅力的で華やかで____
樋口に聞く限り未だアイツとAは恋仲に発展してない。…と云う事は幾らでも俺にチャンスがあるはずだ。
しかし、あのクソ鯖は何で早くAにアプローチしねェんだか。アイツにしちゃ特例中の特例だし、何にせよ四年前の溺愛ぶりは異常だったからな。大体、何で…
『…中也さん?』
「ッ…!な、何だ?」
『駐車場、過ぎてますけど…』
___________
車を走らせて、着いた先の駐車場を下り中也さんについていくと薔薇園に囲まれた丘の上に立つ店に来た。
昼頃に予約してくれたのか、名前を伝えると席に案内されすぐにシャンパンが運ばれて来た。
「んじゃ、改めて…お疲れ。手前は良くやってくれた」
『中也さんもお疲れ様です。…乾杯』
チン、とグラスの音が鳴って一口味わう。透明感のある酸味の奥に優しい葡萄の甘みを感じる。
個室にゆらゆらとキャンドルが揺れる。落ち着いた二人きりの空間で食事をとる。仕事の話を時々交えながらも大体は他愛のない話をしていた。
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あい - ??? (1月29日 23時) (レス) id: 59cf03caf8 (このIDを非表示/違反報告)
あい - 更新中でしょうか?ワクワクです (1月29日 20時) (レス) @page43 id: 59cf03caf8 (このIDを非表示/違反報告)
時雨 - これ太宰さんどうなっちゃうんでしょうか……あと文才ご凄くありますね! (1月22日 11時) (レス) @page31 id: 68fda9e290 (このIDを非表示/違反報告)
悠 - こういう系あまり読み続けられないんですがこれは一気に読めちゃいました…!文章能力すごい高いですね…尊敬…更新待ってます!頑張ってください! (8月26日 15時) (レス) id: efb8355445 (このIDを非表示/違反報告)
ライム - こういう物語って大体中也ポジの人は振られちゃうので、この展開メッチャ好きです!私が中也推しなのもあるかもですけど、wとにかく更新楽しみにしてます! (2023年3月25日 3時) (レス) @page42 id: e7904a37c4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:桜雪 | 作成日時:2020年1月25日 21時