鍾愛 １６ ページ17
「オイA。手前大丈夫か?」
『え…?』
「顔、酷ェぞ」
眉間にシワを寄せて書類に目を通している我が補佐。確認書類に印鑑を押すだけなのになぜそんな顔をするのか。
本来締め切りが一週間後の書類を殆ど一日で終えてしまったり、顔色も良く無い事からそれを指摘すると一寸失礼します、と云って後ろを向きポケットから手鏡を出した。
その際に唇を撫でて、落ちてるかな…と呟いたのでそうじゃないと頭をぶつけそうになった。
「違ェよ。ちゃんと寝てるか?」
『寝てます』
「ちゃんと食ってるか?否、細すぎる。食ってねェな」
『食べてます!』
本当かよ。と思ったが、四年前のもやし体型に比べたら少しはマシになったのか。あれは少しでも力を入れて触れようものなら瞬間崩れてしまいそうだったな。
「ならその顔は何だよ」
『何もないですよ?』
そう云って笑う。嗚呼、嘘臭ェ。一寸此方来い、と手招きする。一歩ずつ近づいて来るAにもっと、と近寄らせる。
俺のデスクにぴったりと腰をくっつけるまで近寄らせた所でぷに、と両頬を指で摘んで横に伸ばしてやった。
『は、はひふふんへふは!』(な、何するんですか！)
「うっせぇ。暗い顔してんじゃねェ!」
『はっへぇ…』(だってぇ…)
「心配なんだよ」
手を離すと赤くなった頬を抑えながら間の抜けた顔をする。
「手前、悩んでも云わねェだろうが」
酒に酔った時に樋口や芥川にはペラペラ喋ると最近知った。Aと呑みに行っても両方酒に弱い為其処まで呑まない。それを知ってから俺も彼奴らから聞き出しているが、最近は二人とも呑んでいないらしい。
大体、そんな形でAの心中を知ったって意味がない。
「いっへぇ!」(いってェ!)
『お返しです。
私は大丈夫ですよ』
両頬を同じように摘まれる。その顔は先程よりは多少明るかった。それにしても、真正面で笑った顔をこんなに間近に見たのは初めてだった。
(可愛い)
思えば、余りに日本人らしい性格の此奴は常に愛想笑いを浮かべている。心の底から笑顔になったりそれこそ声を出して笑う事もない。
「何時もそうやって笑ってろ。優しいのも良いが、ちったァ自分本位で生きてみるのも悪くねェぞ」
『本当にそうなれたら素敵ですよね』
自己肯定感皆無。自虐的で人に何でも譲ってしまうお人好しな性格。嗚呼向いてねェ。黒に向いてない。
それでも必死に居場所を求めて、決して染まる事ができねェのに染まろうとする此奴がどうにも愛おしい。
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あい - ？？？ (1月29日 23時) (
レス) id: 59cf03caf8 (このIDを非表示/違反報告)
あい - 更新中でしょうか？ワクワクです (1月29日 20時) (レス) @page43 id: 59cf03caf8 (このIDを非表示/違反報告)
時雨 - これ太宰さんどうなっちゃうんでしょうか……あと文才ご凄くありますね！ (1月22日 11時) (レス) @page31 id: 68fda9e290 (このIDを非表示/違反報告)
悠 - こういう系あまり読み続けられないんですがこれは一気に読めちゃいました…!文章能力すごい高いですね…尊敬…更新待ってます!頑張ってください! (8月26日 15時) (レス) id: efb8355445 (このIDを非表示/違反報告)
ライム - こういう物語って大体中也ポジの人は振られちゃうので、この展開メッチャ好きです！私が中也推しなのもあるかもですけど、wとにかく更新楽しみにしてます！ (2023年3月25日 3時) (レス) @page42 id: e7904a37c4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：桜雪
| 作成日時：2020年1月25日 21時
