【文スト】私と貴方の。【太宰治】

番外編:聖ヴァレンタイン日 ページ31

とんでもなく遅刻しました、すみません…。太宰の行動についてはホワイトデーで書きます。
本編はもう少しお待ちを。
受験の皆様、応援しております。
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甘ったるい香りが街中に漂い、世の少女と女性が色めき立つ────然様な今日、二月十四日。俗に云う、聖ヴァレンタイン日、とやらだ。

幾ら荒事専門の武装探偵社とは云え、毎日が危険と隣合わせ、何て事ある筈は無く。時には、緩やかな空気の中でまったりと仕事をする事も有るのだ。
尤も、毎日が危険な職場は前職で懲り懲りなのだが。

詰まり、ヨコハマの二大異能力組織の片腕、武装探偵社にも、ヴァレンタイン日の風潮は在る。
其れ故に────。


「此れ、如何しろと……」


足元の仕事鞄からひっそりと呆れる様に顔を覗かせるのは、丁寧に包装され白いリボンの掛かった紺色の小さな箱。其の近くの不自然な隙間は、先程皆に渡した分が有った証拠。

不意に溜息が零れる。


「朝から居ない事に感謝したのは初めてだわァ」


誰にも聴こえぬ様に呟いて、二度目の溜息と共に少し離れた誰も居ない席を見遣る。

彼れは、昨日────。


♡°*☆°*♡°*☆



「Aちゃんは太宰さんの分、如何するんですの？」



谷崎にあげる猪口冷糖を悩んで居たナオミからの思い掛けない言葉に、茶を飲もうと湯呑みを取った手が石にされた様に固まる。
無理もないだろう。唐突過ぎる上に本当に忘れていたのだ。
──然う、私には恋心何て物があった。


「え、み、皆と同じのよ？」


照れ隠しに茶を啜ったが、動揺しているのか味が判らなかった気がする。
だが今度はナオミ丈でなく、与謝野でさえも然様な事は御構いなしに。


「好きなのに？」

「ぐッ」


本当に吹き掛けた。
思わず向かいに人が居なかった事に安堵した位には、本当に。
気管に入った為か、暫く咳をして居ると、其の反応すら面白そうに、若気る女性二名。対して私の顔は恐らく真っ赤。


「そうだよ。アンタ今年、太宰には違うのをあげたら如何だい」


名案だ、と自信げな与謝野に｢否、何で今年になって突然……｣と可也遠回しに拒否してみた。が、今度此処に、


「半年の昏睡状態から目覚めた許りですのよ！太宰さんも心配してらっしゃいましたし、御侘びも兼ねるのですわ！」


厭に乗り気なナオミが、途轍も無く真っ当な理由と共に提案したのだ。余りに真っ当故に、そっか詫びの品か、等と黙考し始めたのが止めだった。

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