【文スト】私と貴方の。【太宰治】

生存十三日目。 ページ14

彼此(かれこれ)二時間程。
大の大人で有る私が、膝を抱えてソファに踞った儘である。

其の二時間前に何が起きたかと云えば、悲しい位に同僚から拒絶され、飛び出して行った、と云う事だけ。直ぐにでも追い掛けたい衝動を抑えたは善いが、其れは其れで、自責の念に絡め取られる要因と成った。

其れを見かねた社員が作戦を立て、同僚を追ったが、私は待機とされた。


其の事で拗ねた様に踞り______





____今に至る。


本日何度目か判らぬ溜息を吐き、目の前の人物を見遣る。

もう夜の八時になると云うのに、机の上には大量の駄菓子。回転椅子に膝立ちで座り、くるくると廻って居る。

自分より四つ程年上にも関わらず、精神年齢的には小学生低学年。然し、頭が切れる社の要。
異能力【超推理】___と云う名の唯の推理力___を持つ、名探偵。

名を_______江戸川乱歩。


異能持ちで無いのに、一見しただけで事件の全容が判って仕舞う頭の佳さ。

私も旧友に指摘される程、頭が佳かった。
寧ろ、佳過ぎて仕舞うくらいだったのだが、上には上が居る、と云う事だろう。



______却説。
______矢張り話を逸らしても、頭から離れないね。


我ながら本当に情けないと、殆(ほとほと)自分に呆れる。
煮え切らない思いを抱えるのはタチでは無い。
思い切って訊くしかないか、と心に決め口を開く。




｢あの、乱歩さ｣
｢安心しなよ太宰。彼女は絶対に戻って来る。この名探偵が云うんだから間違い無い!!｣

｢…然うですね｣




_____斯様な処さえ、流石と思わせる。
_____遮って云える程、判り易かっただろうか。
_____全く、乱歩さんには敵わない。


徐々(そろそろ)行こうか、と時計を見て立ち上がった乱歩さんに、ええ、と答えて二時間振りに手脚を伸ばす。
身体の節々に痛みを感じたが、見て見ぬ振りをし、小走りで彼の後を追った。

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