【文スト】私と貴方の。【太宰治】

生存十二日目。 ページ13

あれ、と不意に疑問を覚える。
本当に斯様(こん)な処に住宅なンて在っただろうか、と。半年の内に大分変わったのだろう、と納得させて此処まで来たが、何かが可笑しい。
何かに嵌められている、然様な気がするのだ。

然し、嫌に良く当たる厭な予感が、今回はしない。

_____詰まり、厭な事ではない…？


淡々と腕を引き続ける少女を斜め後ろから見ても、怪しい感じはなく、何処と無く懸命さが伝わって来る。

私を誘導している様な。
然様な気が。



_______誘導？
_______幼気な少女が？
_______有り得ない。



_______何て事は有り得無い……！



ぞくりと背筋に冷たいモノが傳い、蛇が首で塒を巻く感覚を覚える。
其れは、Aが今迄、殺し屋に暗殺されそうになった時のみ感じるモノだった。

然し、彼女からは殺気が感じられない。若し蛇であるとしても、毒牙を抜かれた蛇だ。


_______まァ精々、元暗殺者、と云った処かな。


警戒したり、寝首を掻かれる感覚に陥ったり、気を抜いたり。然様な目紛しさを感じどっと疲れている間に、閑静な住宅街が目に映る。
其れこそ何時の間に、だったが最早如何でも善かった。


｢私の家は彼処｣


今迄黙っていた彼女が、指を指しながら声を発した。
その指の先には、極普通の住宅が在る。然し、普通の家から感じ取れる暖かさは感じられない。


______まァポートマフィアだろうが何だろうが、暇潰しに成れば何でも善いんだけどね。


クツリ、と迫り上がって来た笑いを喉に押し止める。代わりに、表情に優しい笑みを貼り付け、鏡花に引っ張られる振りをし乍ら、何の躊躇いもなく歩を進めた。

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