生存一日目。 ページ2
黒瀬Aは、柔らかい寝台から身を離し、床に足を着ける。寝台を手で押し、立ち上がろうとするも、両手両脚に力が入らない。
何度か試したが、立ち上がる事が出来ない事を悟り、忌々しげに溜息を吐いた。
策を巡らす様に、記憶にある
────或った。
其処に印されている数字に、一瞬目を見張る。
然して納得した。
────そりゃ約半年も昏睡状態なら当然か。
・
却説、如何したもんか。
寝台へ戻ったのは善いけど、動けないと成ると流石に如何仕様もない。
直ぐにでも太宰治の元へ行きたいんだけど……。
と考えるAの耳に、ぎぃぃと云う扉の音が届いた。
誰が来たんだろう。
まぁ多分──
「A、アンタ……目が覚めたのかい!」
────与謝野晶子
「御久し振り…ですかね与謝野医師」
「なンだい?堅苦しいねェ。って、身体動かないンだろ?」
Aは思わず、流石は医者だ、と感心した。
一見──否、恐らく私が起きたと知った時点で判っていたのだろう、と察したからだ。
「ええ、其の通りです。全ッ然動かないんで、治療して貰っても?彼奴の元へ行かないと」
真っ直ぐに与謝野の目を見据え、嘆願するA。
彼奴ねェ、と含みの有る呟きを洩らした与謝野。
「彼奴って云うのは──
────太宰治で合ってるかい?」
目を見張るAに与謝野は、如何なンだい、と答えを急かした。
Aは、云わずして治療は無し、と察し観念した。
「……ええ、合ってます」
「何しに行く気なのか位は教えて貰いたいねェ。感動の再会って訳じゃァ無いだろう?」
見透かされてる。
直観で然う感じた。
答すら知っているのだろう、とも。
「赦さない、と言いに行く心算です。序に、彼奴は死を望んで居るので、殺さない程度に打っ潰そうかと。あと犬」
素直に話す事を決めたAは、至って真面目な視線と声で彼女に教えた。
すると、彼女は目を丸くした後、喉を鳴らして笑い始めた。
其の光景に目を丸くしていると、漸と笑いを引っ込めた与謝野は、悪い悪いと、悪びれる気も無く謝った。
「然うかい。彼の太宰をねェ。其れが聞けて充分だよ。それじゃァ治療を始めようかね」
其の言葉に安堵する。
お願いします、と微笑んで言うと、与謝野は、然う云えばアンタは珍しい奴だったねェ、と又笑みを零した。
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りく(プロフ) - 物部さん» き、期待していただけるなんて光栄です!!スランプにがっつりハマっていますが、頑張って更新します! (2016年11月28日 21時) (レス) id: ac95837323 (このIDを非表示/違反報告)
物部(プロフ) - 続き期待しています。更新頑張って下さい! (2016年11月21日 22時) (レス) id: fcc84377d6 (このIDを非表示/違反報告)
りく(プロフ) - つららっちょさん» んおおおお!そんな、そんな!嬉しいです!!ご期待に添えるよう頑張ります!!コメント有難うございます!! (2016年9月3日 21時) (レス) id: ac95837323 (このIDを非表示/違反報告)
つららっちょ(プロフ) - 夢主ちゃん幸せになってて良かった……!更新される度に心が踊ってました笑これからも楽しみです。応援しています! (2016年9月3日 21時) (レス) id: 134dceea58 (このIDを非表示/違反報告)
りく(プロフ) - あさぎり*さん» 最初から!頑張って更新します!!コメント有難う御座いました!! (2016年9月1日 7時) (レス) id: ac95837323 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:りく | 作成日時:2016年8月20日 18時