38、狡い僕 ページ5
彼女の頬を撫でながら口付けた。
静かな寝室には、Aの声とシーツの擦れる音だけが響いて、それが少しずつ…僕の理性を奪っていく。
｢…ん、…っ、｣
小さな声を漏らしながら、僕に身を委ねていた筈の彼女が…突然。
僕の肩を軽く叩いた。
｢ぅ、…んっ、まっ、て…？｣
｢…ん？｣
唇を離すと、乱れた呼吸のまま…僕をじっと見つめる。濡れた唇を指で拭ってあげると、『安室…さ、ん』と呟いて。
｢…なに？｣
｢けが…、してるの？｣
｢…｣
流石に、バレるよな…。
薄暗い寝室の中、Aの唇を塞いでしまえばいいか…なんて甘い考えをしていたけど。
僕の背中に縋りついた時に、ガーゼに触れたんだろう。
｢……背中…怪我？いたい…？｣
｢ん？…痛くないよ｣
｢で、も…｣
｢大丈夫｣
｢…｣
彼女の頭を撫でて、微笑んで。
『大丈夫だよ』『痛くないよ』と。
繰り返しても、泣きそうな顔をしているから…怪我の痛みよりも、よっぽど。
胸が、締め付けられるように痛くて堪らなかった。
｢なんで…怪我、しちゃったの…？｣
｢…｣
｢安室さん…？｣
｢…どうしてだろうね｣
｢ぅ…茶化さないでよ…｣
僕の心配をしてくれる嬉しさより、何も話せない哀しさが勝った。
Aのこんな顔、見たくなくて。
僕が、こんな顔をさせているのが苦しくて。
…Aが、何も考えられなくなるくらい。僕で満たしたくなった。
｢無理しちゃダメだよ…安静にして？｣
身体を起こそうとする、彼女の細い腕を掴んでシーツに縫いつけた。
｢ぁ、っ！な、んで…っ、んん｣
すぐに唇を塞ぐ。
抵抗しかけた彼女は、キスをするうちに身体から力が抜けてしまった。
…僕は大丈夫だから。
もっと…君の隣で生きてるって実感したい。
Aの鼓動を感じたい、から。
お願い、僕から…逃げないで。
｢っん、…だめ、だよ…っ、怪我、痛む…っ｣
｢大丈夫。……Aさんが一緒に居てくれれば…僕は、大丈夫、だから｣
｢な、に…いって……っ、んぁっ、｣
『Aさんは。…何も気にしないで？』
耳元でそう囁けば、大きく身体を震わせながらコクコクと頷いた。
……ごめん。
身勝手で。
何も…言えなくて。
僕は、最低だ。
ー『好きだよ』。
なんて。
僕のせいで乱れたAの姿を見ていたら、簡単に口に出しそうになったから。
甘い声が漏れ出る彼女の唇を塞いで…
伝えそうになった、その " 言葉 " を。
今日も。
無かったことにしたんだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 728人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
re(プロフ) - arisuさん» arisuさん、2人の視点のお話を読んで下さって、本当にありがとうございます…！！温かいお言葉、とっても嬉しいです😭✨✨書いて良かった…！楽しんで頂けたようで、私はとっても幸せです(*^^*)💕こちらこそ、ありがとうございました！✨ (2023年4月21日 10時) (
レス) id: 78ebe0a207 (このIDを非表示/違反報告)
arisu - 夢主視点も降谷さん視点も最高でした🥹ありがとうございます✨👏🏻✨👏🏻✨👏🏻✨👏🏻✨👏🏻✨ (2023年4月20日 14時) (レス) @page31 id: 8db8ff9f57 (このIDを非表示/違反報告)
re(プロフ) - やっちさん» やっちさん、コメントありがとうございます…！✨最高に良かったの言葉、めちゃくちゃ嬉しいです！！書いて良かった😭✨夢主ちゃん羨ましいですよね🤣💕温かなコメントを頂けて、とっても幸せです(*^^*)本当にありがとうございます！！ (2022年7月21日 12時) (レス) id: 6b9303296e (このIDを非表示/違反報告)
やっち(プロフ) - 安室さん最高に良かったです！夢主さん羨ましい〜 (2022年7月19日 14時) (レス) @page31 id: aabe067d77 (このIDを非表示/違反報告)
re(プロフ) - 自宅警備員Nさん» 自宅警備員Nさん、コメントありがとうございます…！本当ですか…！(;-;)✨キュンキュンして頂けたようで、私はとても幸せです！評価も押して下さって感謝しかありません(;-;)✨これからも頑張りますね(*^^*)ありがとうございます…！ (2021年10月18日 13時) (レス) id: 963c697df1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：re
| 作成日時：2021年8月5日 20時
