8、隣の部屋 ページ8
涙目で僕が押し潰した頬をさするAは、困ったように眉を下げてじっと僕を見つめた。
「男の " 僕 " に襲われたと思うのが普通でしょう」
「いや、だって……」
正論を言っても引き下がる気が無さそうな彼女に、自然と小さなため息が零れる。
やっぱり、彼女は…違う。
僕の作り物の笑顔だけを見て、言い寄る女性達とは…
" 安室透 " と、何としてでも…必死に繋がりを持とうとする、客とは。
全然違う。
もし本当に『僕の事が好き』なら、あのまま流される女性の方が圧倒的に多いのだろうし。
きっと、絢瀬Aは。自己肯定感が低くて。
純粋で…誠実な女性だ。
相変わらず、僕をどう思っているのかは分からないままだが。
彼女を騙すようなことをした罪悪感よりも…Aの頭を、" 僕 " でいっぱいにしてやりたい、と。
そんな、醜い欲望が
僕の身体の奥深くに、生まれた…気が、した。
だから。
「あの…私、本当に……安室さんと…その、最後まで…しちゃったん、ですか…?」
消え入りそうな声で呟いたAに、悪戯っぽく笑いかけて。
僕の反応に慌てる君へ
『さぁ?どうでしょうね?……ご想像にお任せします』。
なんて、意地悪を言ってから、その身体を優しく抱き起こしたんだ。
僕の目の前で、キッチリと正座をしているAは、いたたまれないのか俯いたまま…僕と視線を合わせようとはしない。
「それで?何となく予想はついてますけど、昨日のこと…詳しく教えて貰えます?」
『ポアロ常連客の、Aさん?』
笑顔でそう告げれば、彼女はすぐにバッと顔を上げて。
泣きそうな表情のまま『はい!』と返事をした。
まだ少し濡れている彼女の髪から漂う、シャンプーの香りが。
僕の寝室に、少し馴染んだ気がした。
結論を言えば、僕と絢瀬Aの部屋は隣。
今まで、お互いその事実に気が付かなかったようだ。
彼女を一度自分の家へと帰らせた僕は、身支度を整えてきたAと再び向き合っていて。
「昨日は、お友達と久しぶりに会いまして…お酒をいつも以上に…その、たくさん飲みました。
タクシーで家に帰ってきて…。鍵を取り出して…開けようとしたんですけど」
「開かなかったんですね?そこは " 僕 の 部 屋 " 、だったから。」
今にも泣きそうな声で昨日の出来事を話す彼女に、淡々とそう告げた瞬間。
「……はいツ!!その通りです!本当に!すみませんでした!!」
そんな叫び声と共に、僕の目の前で盛大な土下座を決めた。
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真実(プロフ) - reさん» どの小説も読みやすかったです。一目惚れのお話は読んでいてこんな一目惚れの仕方もあるのかと感心しました!リクエストの件、ご無理はなさらずに形に出来そうであればお願いします!! (2021年8月6日 13時) (レス) id: 19057a7d80 (このIDを非表示/違反報告)
re(プロフ) - 真実さん» ぇええ?!全部読んで下さったのですか…?!(;-;)貴重なお時間を私の小説に割いて頂いて…う、嬉しすぎます…!本当に幸せです、ありがとうございます(;-;)一目惚れのお話も読んで頂けて幸せです…!リクエストのお話もいずれ形にできるよう、頑張りますね!^^ (2021年8月6日 7時) (レス) id: 963c697df1 (このIDを非表示/違反報告)
真実(プロフ) - reさん» 読んでいてお互いの気持ちを考えているのが分かるのでキュン死するかと思っています(因みにreさんの小説は全部読破しております/リクエストした際に言っていた降谷さんの一目惚れの小説も読みました) (2021年8月5日 21時) (レス) id: 19057a7d80 (このIDを非表示/違反報告)
re(プロフ) - 真実さん» 真実さん、コメントありがとうございます…!2人の、お互いを大切に想う気持ちを伝えられているのなら、私はとても幸せです…(;-;)とても嬉しいお言葉、いつもありがとうございます…!2人の幸せのために、続編も引き続き頑張りますね!^^ (2021年8月5日 19時) (レス) id: 963c697df1 (このIDを非表示/違反報告)
真実(プロフ) - 夢主には夢主の苦悩、降谷さんには降谷さんの苦悩と言うものがreさんの小説から痛いほど伝わってきますね。けど、それはお互いを大切に思っての事だと思うと切ない気持ちになります。続編も楽しみにしてます!! (2021年8月5日 13時) (レス) id: 19057a7d80 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:re | 作成日時:2021年7月25日 15時