4 ページ32
私もテーブルの上に残ったチーズケーキの皿を手に取ると、フォークで掬って食べた。
「それもうまそう」
「おいしいよ」
彼が私にしてくれたように、私もチーズケーキをフォークで掬うと彼の口の前に差し出した。
彼は嬉しそうに笑うと、その口にチーズケーキを含んだ。
「これも、うまっ！」
同じフォークでケーキを食べることも全く気にしてない彼の様子に、ほんの少しの寂しさを覚えて、それを誤魔化すように
「これ、よかったら食べて？」
って目の前のチーズケーキを皿ごと彼に差し出すと、
「え？いいの？」
って言いながら、私の食べかけのチーズケーキを食べた。
「うまかった、ごちそうさま」
「コーヒー、おかわり飲む？」
彼は時計をちらっと確認すると、
「・・・いいの？」
って聞いた。
私は、テーブルの上に置いたままになったスマホを手に取ると画面を確認した。
夫から、何も連絡のないスマホ。
「帰るって連絡はないし、私も予定はないし。智くんに予定がなければ、せっかくだし、さっきのアジのお刺身も一緒に食べて行って？」
「俺は、別に予定はないけど・・・飯作るの面倒じゃない？」
「え、だって、もともと２人分は作るつもりで材料もあるし。智くんからお魚もらって、お刺身にしてくれたから、おかずも増えたし、面倒なんて何もないよ？ご飯出さないと、私が怒られちゃうから」
って言うと、
「俺、Aさんのごはん、好きだよ」
って彼はふわっと笑う。
彼は私の作る料理が好きだって言っただけなのに、彼の言葉に顔が赤くなるのが分かって、
「あ、コーヒーおかわり淹れてくるね！」
って言うと、キッチンに逃げ込んだ。
彼の好きは、義理の姉だからっていう意味なのは分かってる。
彼の家庭は複雑で、私の夫は弟の彼を小さい頃から面倒見てきた。
だから、大人になった今でも兄弟の仲は良い。
智くんと初めて会ったのは、夫からプロポーズをされて、家族に紹介したいって言われた時。
初めて彼に会った時は、大好きな人の弟、これから家族になる人なんだって。
夫は自分の仕事も忙しいのに、
「あいつは、放っておくと飯も食わないで、絵を描いたりしてるから」
って弟のことを心配して、月に１〜２回、弟に電話をして家に呼んでは、３人で一緒に食事をするようになった。
私の料理を「おいしい」って食べてくれる彼を、自分の弟みたいに思っていた。
なのに、どうして、こんなに惹かれてしまったんだろう。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1334人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
とも(プロフ) - もぉ…どのお話も切なすぎて心がギュッと痛くなりました(T_T) (2017年10月29日 11時) (
レス) id: b4753fc97a (このIDを非表示/違反報告)
ｳｯﾁｰ(プロフ) - でいじぃさん。禁断のお話とてもよかったです。読んでいて何か鳥肌がじーんと、たってきて。こういうことってありだろうなって思いました。お話ありがとうございました。 (2017年7月17日 13時) (レス) id: 7f541d8bdf (このIDを非表示/違反報告)
なおち(プロフ) - やっぱり義理の弟シチュはたまりません（笑）主人公からの別れより相手からの別れの方が、心にグッときます。トラウマとは違うけど、これからもずっと影響、支配されるみたいな。 (2017年7月17日 10時) (レス) id: 4cd26d7ff0 (このIDを非表示/違反報告)
ぐちこ(プロフ) - こんにちは！更新ありがとうございました！『切ない』というキーワードの切ないお話。読ませていただきましたが、切ないけどそれぞれの終わらせ方がそれぞれに区切りをつけていて、悲しいだけではなかったです♪ありがとうございました(*^^*) (2017年7月16日 13時) (レス) id: 85c8073b6b (このIDを非表示/違反報告)
でいじぃ(プロフ) - ｳｯﾁｰさん» 禁断の香り、してますか？？夫の帰りが遅い・・・奥様には魅力的な言葉ですよね( ´艸`) (2017年7月10日 22時) (レス) id: 81a6b6fca5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：でいじぃ
| 作者ホームページ：
作成日時：2017年5月24日 23時
