▽ ページ27
「でもあれやわ、うん、……あながち間違いやないかもしれへんな」
小声でひとり言のように呟かれると、それがどういう意味かわかってしまう。
「すまん、いまのなしで」
「いや無理でしょ。…ちなみに、その、どこに？」
「………あー…えーっと、…口やけど」
珍しく歯切れが悪い。
そんな気はしていた。聞かなければよかった、と思うのは何度目だろう。
「別にええやん減るもんやないし、はじめてでもないやろ」
「知らないよ」
聞きたがったのは自分なのに、こんなにも心が痛い。
更に追い打ちを掛けられると分かっているのに、机に置かれている雑誌を再び開こうとした。
手を伸ばしたところで、阻まれる。
私の腕をシッマくんが掴んで、雑誌を反対の手で取り上げてしまった。
「お前！いやまんまと騙されたね、あのリアクションは気付いとったんかと思うやん！」
「なに、なに」
今更意味を見られるのが恥ずかしいのか。傷つくとわかっていても雑誌を取り返そうと手を挙げる。
「もう後にも引けへんかぁ〜……待って？とりあえず待って」
「洗いざらい教えてくれるの？」
「誤解されたままでもしゃーないからね、話すよ」
好きな相手の恋愛話を聞くことになってしまった。それでももうすっぱり諦めるためにはいいのかもしれない。
だってあのシッマくんの耳が赤い。
今度こそ正式な失恋だ。覚悟を決めてシッマくんに向き直った。
「先週の放課後の話なんやけど、Aここで寝てたやん」
「え」
どうしてここで私の名前が出てくるのだろう。その一言でパズルのピースが嵌っていく。
それはつまり、
「ねえ待ってそれって」
「ここで待ったはなしやろお前！」
「うそ、いや本当に？」
だとすれば「はじめてでもないやろ」と私に言うのは間違っていない。
「雨で部活が早よ終わって帰ろうとするやん。倉庫前で雨宿りしながらいちゃつくカップル見てまうやろ。気になるやん！そんなええもんなんやろかって気になるやん！」
一気に捲し立てるのを、ただただ聞いているしかなかった。
「そんであれだよ、A居るかもしれへんって思って図書室に寄ったら居って、しかも寝てるやん」
これは多分、告白だ。罪の告白かつ、愛の告白でもある。
「ついやっちゃったよね、うん」
……言い方は最悪だった。
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