え？ 彼氏？ 普通に一般人ですけど。【となりの坂田。】

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Aside

なんだか悠の狂気が見えてしまって酔いが覚めてしまった。

そして、まふくんのスマホの通知があまりにうるさいのとそこそこ時間も立っていたのもあって、もう配信はお開きになることとなった。

否、そのまま何事もないまま終わるつもりだったのに。

｢んじゃ、最後に妹の活動名みたいなの決めよっか。
いつまでも“そらるの妹”じゃ呼びにくいしね〜｣

上機嫌で唐突にこんなことを言い出すお兄ちゃん。

『え、そんなのいらないでしょ？
もう配信出るつもりないし。

私はお兄ちゃんと違って普通の一般人なんだもん、お兄ちゃんの活動迷惑かけるわけにはいかないよ』

一般人と活動者というのは、そういうこと。

いくら兄妹といえど私の存在がお兄ちゃんの活動に影響を及ぼす可能性はゼロではない。

それが恋人なら、尚更だ。

よかった、うちの彼氏は一般人で!!!

そう心の中で安心しながらも、コメント欄で


》え、もう出ないんですか?!

》もっと妹さんとの絡み見たかった…


というような惜しむコメントを見てしまうと少し寂しさを覚える。

確かにリスナーさんとのお喋りはとても楽しかった。

でも、必要以上に目立つ立場を求めると痛い目にあうということを私はよく知っているから。

『もういいよ、一日でもこんな素敵な体験させてもらって嬉しかったから。

お兄ちゃんの駄々でリスナーさん困らせちゃ駄目だよ。
ほら、ちゃんと締めて』

そうお兄ちゃんに言うと、案の定ぶすっとした顔でこちらを見ている。

うわ、いかにも不機嫌そう。

あの顔は扱いが難しくて面倒臭い“駄々っ子モード”に突入した顔だ。

うちの兄は酔っ払った際にしばしばこういうことがある。

｢やだやだやだ何でもう配信出ないとか言うの？
一緒に配信しようよ、ゲームしようよ、お酒飲もうよぉ。
ねえだめなの？｣

『うるさいうるさいうるさい…』

酔っ払ってウザ絡みをしだすお兄ちゃんに頭を抱える。

｢そらるさん…妹ちゃん嫌がってるじゃないですか…｣

｢やだやだやだむりむりむりむり!!
一緒に！ 配信！ すーるーの！｣

普段一緒に活動しているというまふくんでさえ手なずけられないこの酔っぱらいをどうしようか？

こういう時のお兄ちゃんは黙って言う事を聞いた方が一番早いんだけど私はこれ以上表舞台に立つ気はないし。




……もういいか、諦めよ。

考えんのもめんどくさいね。

こうして私は、考えることを放棄した。

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