【銀魂】春時雨の降る夜【坂田銀時】

お手軽アトラクション ページ25

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惜しみなく記憶に刷り込んだ海とのお別れの時間が刻々と迫っているのにも関わらず、何をするでもなくじっと見つめて世界を感じ続けていると「そろそろ帰ェるぞ」なんて万事屋さんの一声が淀みなく耳に届き、それは現実のものとなった。

瞭然とした名残惜しさや寂寥感をごくりと呑み込み、胃の一番奥の方に閉じ込めて、そのまま「はい」と返事をする。そして私は踵を返し、美しい海に背を向けて自動二輪車へと乗り込んだ。





「ねえ、万事屋さん」





ゆとりある発進の最中、不意に彼の背中に声を掛ける。「あ？」と愛想のない返答に苦笑を零しつつも「わがままに付き合ってくださって、ありがとうございました」と、エンジン音に掻き消されない程度にはボリュームを調整して、述べてみた。


……照れ臭いけれど、万事屋さんには多大なる感謝をせねばならない。こんな無茶を聞いてくれたのは彼が初めてであったし、無礼な口調は改善してほしいが、芯の温かみある優しさは隠しきれておらず。万事屋という大胆かつ酔狂な商売ではあるものの、そんな彼にとってはきっと天職なのだろう。





「もっと早くに、貴方と出会っていたかったです」





砂糖菓子を加熱して溶かしたもので薄膜を作り、愛おしい孫にお小遣いをあげる祖父母ごとまるっと包み込んだような甘い言葉を、柄にもなく吐いてみた。


──……私にとってそれは、別に大それた感情が詰め込まれていたわけではなかったというか、ただ単に純粋に抱いた気持ちを具現化した結果のものだったのだが、何故だか万事屋さんの癇には触れてしまっていたようで。

「うっせーマセガキ事故るぞ」と理解し難い暴言を投げ付けてきた挙句、慣れた手つきで自動二輪車をウネウネと揺らし、スピードを速められる。





「ど、どどどどど、どど、どうして揺らすんですかァア!!か、か、かかか、軽いアトラクションみたいになってしまってるではありませんか!!普通に走行してくださいィィイイ!!」

「どうせ遊園地も連れてってくれねーような堅物家系なんだから丁度良いじゃねェか」

「そ、それとこれとは別ですゥ!!命綱が!!命を繋ぐ綱をご用意なさってから仰ってくださいお願いしますゥゥウウ!!」





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