【銀魂】春時雨の降る夜【坂田銀時】

不意打ち便所 ページ22

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やんわりと霞む月が照らす道に沿って進む自動二輪車に乗ってから、早くも十数分が経過した頃だろうか。思えば自分の住んでいる家が日本のどの位置にあるのかさえハッキリとは把握していないので、海に到着するまでにどれくらいの時間を要するのかなんて、全く検討がつかなかった。


金銭面に余裕が無い割には不潔な匂いがしない万事屋さんの温かい背中に左頬をくっつけたまま、動かせる範囲で視界を詮索する。
そこには、自転車小屋のような建物が密集している場所もあれば、せいぜい便座一つがやっとであろう厠みたいな広さで商売をしている所もあった。

大体の場所が一畳くらいの面積しかないこの事実に、どうにも理解が追いつかない私の頭。そんな所で衣食住を行っているなど到底思えないけれど、万事屋さんによれば、そこに住まう人間は皆、それなりに幸せらしい。





「(幸せ、かあ……)」





────少々痛々しい哲学的な話にはなるが、幸せの定義とは一体何なのだろう。きっと、最も分かりやすく紐解くとするなら『満たされているか否か』が同義語で結ばれるのだと思うのだ。


どんなに敷地面積が大きいお家に暮らし、こちらの全ての要求を叶えてくれることが約束されていても、私自身は満たされていると感じられない。けれども、自転車小屋の住人達は、雨漏りをしようと、屋根が飛んで行こうと、ちゃっかり幸せを得ているのである。

何を満たせるというのだ、便所で。
便所は催した便意を解決出来る場所だから便所なのであって、食って寝てを繰り返す居住スペースにはならないはずではないか、便所なのだから。唯一満たせるとすれば、己のブツを優しく慰める時くらいであってくれよ、便所なのだから。そういうところだろうが、便所ってのは。





「(盤根錯節的幸福論……)」





私は静寂に沈んでいる脆弱な心を鎮めようと、達観的論題を大々的に脳内に掲げてみたのだった。





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