岐路のち奇跡 ページ3
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「はい、万事屋」
本日を迎えて一度目に発した声は、それだった。にしては上手く発声出来たと自負しながら、白熱しているバトルシーンが描かれていたジャンプを立派な机に開いたまま置いて、ジリリと騒がしい黒電話の受話器を手に取る。
コレが鳴り響く時は決まってやれツケを払えだの、やれうちの新聞を取れだのと、こちらが全く望んでいないことばかりを一方的に伝えてきやがる事が多く、最近は正直出たくもなかった。
少々残酷な話にはなるが、やや大きめの隕石が地球に衝突するなどの歴史的ハプニングが巻き起こり、定められた運命に何らかの岐路が発生しない限りは、この万事屋に依頼なんてモノは来ない。
けれども、もしかしたら次に鳴る電話はそんな奇跡ののちの出来事なのでは──……なんて現実離れした思いも捨てきれないので、俺は毎回渋い顔をしながらそれを取るのであった。
「……は、はぁ、庭の草刈り、ですか?はい、分かりました。では今すぐそちらにお伺いしますんで、住所とお名前、あと一応電話番号も教えてもらって良いですかね」
…………どうやら、懸念していた事項に巡り会うことなく、望んでいた奇跡とやらが難なく起きていたらしい。
やけに甲高い声のじいさんが、電話越しに草刈りの依頼をしたのである。仕事が来るのは、およそ三ヶ月ぶりだ。最早、歴史的瞬間と言っても過言にはならないだろう。
冬が終わりを告げ、季節は春になる頃。降り積もった雪(俺はそれを天からの恵みと呼んでいる)を精一杯掻く依頼が消えた途端に、仕事は急激に減少する。元々そんなにあるわけでもないのに、それは容赦なくどんどんと減りやがるのだ。
今年は異常気象で記録的積雪期間が長引いてしまった……なんてこともなく、例年通りスッと薄汚れたアスファルトが顔を出したので、家賃等を払える余裕は到底ゼロ。
兎にも角にも、仕事は来た。これは紛うことなき事実。俺は徐ろに立ち上がるとそそくさとその場を出て、冷たくなっていた原付に跨った。
「(金が入ったらまずは……チョコレートパフェを食おう。いや、イチゴパフェも捨て難ェな…………)」
天気は、春らしく穏やかな快晴。太陽の機嫌は、すこぶる上々である。静かに耳を澄ませば小鳥がどこからともなく冴えない歌を口ずさんでいて、惜しみなく今の季節を感じた。春日和とは、まさに今日のことを言うのだろう。
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堕天使(プロフ) - 瑠々さん» 返信遅れました瑠々さーーん!いつもありがとうございますほんとにすきです。そう言って頂けて嬉しい限りですが全然、私なんてまだまだ全然です。これからも精進していきたいですよろしくお願いします!! (2019年5月25日 22時) (レス) id: 725743dc16 (このIDを非表示/違反報告)
瑠々 - 面白かったです。とても。どう頑張っても、堕天使さんの文章には追いつけませんね。 (2019年5月18日 6時) (レス) id: ff21270137 (このIDを非表示/違反報告)
堕天使(プロフ) - 柚木さん» 柚木さん!!コメントありがとうございます!!もう、ほんとに嬉しい限りで嬉しいがすぎて令和早々死にかけておりますが、柚木さんのために生きて更新頑張ります!!!!(;;)こちらこそ平成は素敵なものになりました、ありがたいです、私もずっと愛しております!! (2019年5月8日 13時) (レス) id: 725743dc16 (このIDを非表示/違反報告)
柚木(プロフ) - 堕天使さあああん!!!本当に大好きです!!なんでこんなに面白い作品を作ってくれるんですかァァ!!平成ではありがとうございました!!令和も負担がかからない位で活動を頑張ってください!!大好きです!!愛してます!! (2019年4月30日 22時) (レス) id: fe2805c04d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:堕天使 | 作成日時:2019年4月11日 20時