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時は流れ、一ヶ月が経った日。
思い返したのは初めての出会いの情景だった。
ある日突然、姿を現さなくなったあの女。なのにも関わらず、どうしてかその場へ出向く自分の足は、魔法でもかけられたのではないかと心配になる。
「あら、久しぶり」
思いがけない一ヶ月ぶりの再会に驚きながらも、何故突然居なくなったのかを問う程の関係性でも無い為に、別に何も言わなかった。いつものように目の前で立ち尽くし、呆然とそいつを眺める。
あの日のように膝を抱え、黒髪を頬にくっつけたまま瞬きもしない瞳。異国の血のように高い鼻と、彫りの深い顔。ふてくされたように閉ざされた小さな口。全てが異色であった。
「私、海を見てみたいの」
コイツの一人称が『私』だった事にも意外性を覚えたが、それよりも海に興味を抱く姿に謎は更なる深みを見せる。「海、か」と繰り返すと「そう、海」とそれをまた繰り返し、ゆっくりと顔を上げる。
今にも落ちてしまいそうなくらいに曲がっていた首を真っ直ぐに立て直し、身体にしては釣り合わない小ささの頭を少しだけ上に向けると「忘れてしまいそうだから」と。
「忘れる?」
「ええ、忘れる」
「何をだ」
「……何かしらね」
そう言って徐ろに立ち上がると、ぴょこんと跳ねて階段を下りた。やがて、僅か一メートル弱までどんどんと距離を縮め、じっと俺を見上げたまま目を見開いて「何かしら、ね」と言い直す。
不気味なその行動に一歩だけ後方へ動くと、馬鹿にしたようにふふふと笑い、白い歯を見せる。手を丸めて口を隠しながら「おもしろい」とほんの少し涙まで。
──初めて見せた表情らしい表情に、どうしても一つだけ質問をしてみたいという意欲が増幅する。……も、勇気が出なかった。
一頻り笑い尽くしてふぅ、と息をつく。
気持ちの波を抑えたようにして、静止すると再び視線は交わってしまう。
「命の終わりなら、信じられるのにね」
「だって、最期の瞬間は、紛れもなく意思があるもの」口角を精一杯上げて、妖しい笑顔を貼り付けた女はそれだけを言い残して、瞬きを終えた瞬間、跡形もなく姿を消した。
辺りを見回すも、残り香すら匂わない。
そこには、行き場を失った好奇心だけがゆらゆらと蠢いていたのだった。
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なゆなゆ(プロフ) - リクエストです。もうすぐ誕生日なので辰馬で作って欲しいです! (2018年7月27日 12時) (レス) id: 299a5e5ef0 (このIDを非表示/違反報告)
おと(プロフ) - 堕天使さん» 草。 (2018年7月14日 9時) (レス) id: 6e4da90966 (このIDを非表示/違反報告)
堕天使(プロフ) - おとさん» 泣いた (2018年7月14日 7時) (レス) id: 725743dc16 (このIDを非表示/違反報告)
堕天使(プロフ) - シャープ♯さん» いえいえこちらこそリクエストありがとうございました!またいつでもお待ちしているので、気軽にどうぞ!!そして、お誕生日おめでとうございます(いつか知らない)幸せな毎日を遅れることを祈っております! (2018年7月14日 7時) (レス) id: 725743dc16 (このIDを非表示/違反報告)
おと(プロフ) - 堕天使さん» そしてすき。大好き。愛してる。 (2018年7月13日 20時) (レス) id: 6e4da90966 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:堕天使 | 作成日時:2018年6月20日 16時