マイ・ガール 【Jun Matsumoto】 第3章

133. 出迎え ページ41

手荷物受取場をスルーして。
自動ドアをくぐりぬけたその時。

目の前の柱に寄りかかって
立っている人が目に飛び込んできて。
びっくりして足が止まる。






....うそ....っ.....







そこには。ダッフルコートに身を包んだ
センパイが立っていた。







ど...どうしてここに...？







すぐに私を認めたセンパイは。
にっこり笑って近づいてくる。


そうして。私が持っている
ボストンバックをすっと手に取る。






「センパ...」




やっと出た声。


驚いてる私を見て。
またクスッとセンパイは笑う。





「あけましておめでとう、桜井。
　元旦晴れでいい年始めだよ。」





センパイからは昨日メールが来てた。

『来年もよろしく。まだ東京か？
　よいお年を。』といった簡単な内容で。


だから『１日の午後に帰ります』とは
返事していたけど。

詳しい時間までは知らせてなかったのに。




「ど...して....？
　っ！センパイ、帰省は？！」

「あぁ。今年は両親、２人で海外行くって
　言ってたから帰らなかったんだ。」

「あ....」




まだ動揺してる私と正反対にセンパイは。
いつもと変わらずに落ち着いた口調で続ける。







「俺、実はシャーロックホームズ好きでさ」

「え？！」

「お前のことだからたぶん
　羽田発のJALだろうなって(苦笑)。
　なかなか名推理だろ？(笑)」

「....もぉ...っ...(苦笑)」



いつも通りのセンパイの笑顔。

冗談混じりの会話。空気感。




それだけでずっと張りつめていたものが
ゆっくりとほどけていく。


家に着くまではしっかりしなくちゃ、って。
ここまで自分を奮い立たせていたものまで
ぐらぐらと揺れだしていく。






....だ、だめ....っ...





次の瞬間、ふっと真面目な表情に
変わったセンパイ。








「彼とは。ちゃんと話できたか？」





問い詰めるでもない、詮索するでもない
優しい、あたたかい声で。


その瞬間、我慢していた想いが
堰を切ったようにあふれ出す。



センパイの前で立ちつくしたまま
ボロボロと涙がこぼれ落ちていく。

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