箒星 【Sho Sakurai】 第１章

18. お元気で（^^) ページ18

「お客さん、降りないの？」



ハサミを受け取った瞬間。

かけられた運転手さんの声にあわてて
自分からドアを開けた私。




「あのっ」


呼びとめる櫻井さんの声遮るように
自分から挨拶を口にした。




「今日はありがとうございました(^^)
　御活躍応援してますねっ」

「あ、ありがとう....あ、あのっ」



今度は、その瞬間ドアが閉まって。
すぐにタクシーが走り出した。


あわてて窓を開けた櫻井さんが。
冒頭のセリフを口にして。

私もそれに答えて。



そうして。角を曲がって
今ついに見えなくなったタクシー。






ふうっと一つ息を吐く。

やっと解放されて、
素の自分に戻る安堵。
なんだか。長いひとときだったな....




その時。髪にぶら下がったままの
ボタンに気がつく。

思わず指でクルクル回してみたら
次の瞬間、不意に湧き起ってきた苦笑。





櫻井さん。かぁ......





私が今まで抱いていた
アイドル像とは。
いい意味で違って。
”イイ人”だと思うけど。

私の人生では。
交わらないタイプの人。


うん。どうぞお元気で。
御活躍ください。







クルリと方向転換。



早く帰ってメイク落としさなくちゃ。
夜更かしはお肌に大敵だもん。



さぁ。来週の弁護士合コンは
頑張ろうっ！





そうして玄関のカギを
開ける頃には。

今夜の合コンのことも。
櫻井さんのことも。


すっかり頭の中から
抜けていたんだ。

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