箒星 【Sho Sakurai】 第１章

26. 思いだすひと ページ26

どうして。櫻井さんの前で
さらけ出してしまったんだろう。

会って２回目の。しかもアイドルに。
”本当の自分”を。




だって私の気持ち、
ちっとも汲み取ってくれなくて。
一人勝手にどんどん話進めていくから。

女心のわからない人。
ルックスいいのに。紳士なのに。



普通断られたらわかるでしょ？
引くでしょ？

引かないのは。
自分に自信があるから？

こういう人は。はっきり言わないと
わからないのかもしれない。


どうせもう二度と会う人じゃないから。
ネコなんてかぶんなくてももういいや。

そう思って見せた本心。

点数のことまで
言うつもりなかったけど。
まだモゴモゴしてたから。
思わず口走ってしまった





ハトが豆鉄砲って。
きっとああいう顔を
言うんだろうな。

あの大きな瞳、
さらにおっきくまん丸にして。
ぽかんと口開けたまま。
しばらく動けなかった櫻井さん。

本当に。びっくりしてた。



海千山千の芸能界を
生きている人だから。
女性の猫かぶりなんて
免疫あると思ってたけど。

違うのかな。

あの人は違うのかもしれない。



悪いことしちゃったかな。
女性に対する夢、
壊すようなことして。


ううん。でもそれは。
しつこい向こうも悪いんだから。

鈍感な彼のせい。



...ヤダヤダ。何考えてるんだろ、私。
言ったこと後悔なんてしてないのに。









「北田さん？」



呼びかけられた声に
ハッとして隣を向いたら。
不思議そうな顔してこちらを見てる
..えと...は..林田さん。


乗り込んだタクシーは。いつのまにか
私の家の近くで停車していた。


「あっ...ごめんなさい、
考え事しちゃって★
　 す、少し酔ったかもしれません(苦笑)
あ、今日はありがとうございましたっ」

「気をつけて。じゃ、連絡待ってます」


林田さんのセリフには返事をせずに。
にっこり笑顔だけを返して車を降りる。




ごめんなさい。３０点です。

この先、私から連絡することはありません。
どうぞ。他の方とお幸せになってください。




タクシーを見送って。
家へと向かおうと方向転換。

その瞬間。脇から飛び出してきた
ネコにびっくりして。
よけようと変な風に踏み出した一歩。

と同時に響いてきたグキッという音と衝撃。


「きゃっ」



足が崩れ。その場に
へたれこんでしまった私。



あ...



今日の合コン用に新調した
パンプスのヒールが。
見事に根元から折れていた。

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