２「わからない」 ページ2
特別可愛いわけでもなく、勉強ができるわけでも運動が得意なわけでもない。
オール３の通知表を受け取ることが毎年の恒例行事であるような私はまさに絵に描いた平凡な人間である。だがそんな私にも他とは違う「特別」があって、それが恋人であるジェノの存在だった。
誰に聞いても良い噂しか聞かない。「やさしくて」とか「頭がよくて気が利いて」とか、皆言葉の限りを尽くして彼を誉める。別に過大評価でも何でもない。本当にジェノは優しくて、頭がよくて気が利く。私なんかと違って。
もっともっと他に良い子はいたはずだ。ジェノくらいの人間であれば、女の子なんて選び放題なのに何を血迷ったのか今年の夏にジェノは私に告白してきたのだ。(そして了承してしまったあたり、私はミーハーだ)
「A、帰ろう」
あの日から忠犬ハチ公よろしく毎日ジェノは私の教室まで迎えに来る。部活や生徒会メンバーでもあるジェノは楽な部活でゆるゆる暮らしている私とは段違いに忙しいはずなのに。
申し訳ないと同時に、なぜそこまでするのか少し疑問だった。
「ジェノ」
「遅くなってごめんね。ちょっと先生に呼び止められちゃって」
「ううん、いいの」
そう私が返事をするとにっこりと笑って見せた。これが女子たちを一発で悩殺する微笑みだ。
慈愛と優しさに満ちた表情。付き合い始めはこの表情が単なる「笑顔」としか思っていなかったが、日を重ねるうちにどうもこの皮の下には何かあるんじゃないかと思うようになってきた。
その原因はジェノの異常な私への執着だった。
「今日はどうだった？」
学校を出て少ししてから、ジェノはいつもの【尋問】に取り掛かった。
ひたすら私の１日を事細かに聞き、１人でも男の名前があがればすぐにその相手が誰か言うまで訊き続ける。
「フツーだってよ。英語の授業は相変わらずつまんなかった」
「また寝てたんでしょ」
「よくわかったね。あたり」
まぁそこ以外はジェノは優しい良い恋人だった。けれど、とにかく不思議だったのだ。
同じ学年に可愛い子はもっと居る。なんならアイドルのたまごだって。なのにどうして私なんだろう、私なんかにこんなに執着するんだろう。
私はやさしい彼の顔の裏に、どこまでも深い沼があるような気がするのだ。
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作者名：My candy boy | 作成日時：2017年10月21日 0時
