【鬼滅の刃】堕ちた桜のように

外伝 【壱】 小さくなった夫 ページ44

２度あることは３度あると言うが、私はもうこんな事態にはならないだろうと思っていた。
帰ってきた夫が、また子供の姿になっているなど。

「……油断したの？」
「うむ！」

うむじゃねえよ。何してんの本当に。そして前回と同じく、私が世話することになった。
鬼の血鬼術なのか、と聞いてみたところ、今回は少し違うらしい。蝶屋敷に置いてあった飲み物をお茶と勘違いして飲んだところ、それはしのぶさんの作った薬だったという。
何してんの。

「２日もあれば元に戻るらしい！」
「その２日間面倒見る側にもなってくれ」

任務の時は千寿郎とお義父様が、それ以外は私が杏寿郎を監視するということで話はまとまった。
今日の夕食は、私が作ることになっている。千寿郎のおかげで、食べられる程度にはマシなものが作れるようになった。

「食べさせてくれないのか？」
「プライドってもんがないのかアンタは」

食べさせてほしいと目で訴えてくるチビ杏寿郎に、負けたのは私だ。惚れた弱みというヤツだろう。
……ちょっとまだ熱いから、冷ましてからの方がいいかな。

「はい、あーん」
「あー」

いつも、うまい！うまい！と美味しそうに食べてくれる杏寿郎だが、今回は一言だけ、大きく頷いてうまい！とまた食べさせてくれと要求してきた。
仕方ないから私のもあげよう。別に可愛かったからとかそんなことはない。
夕食を終え、風呂に向かう途中、身体が小さくなったからか、杏寿郎は歩くのが辛そうだ。さっきも何もない廊下で躓いていたし。

「……」

仕方がないからと抱き上げてやると、すまん！と申し訳なさそうに、けれど嬉しそうな声が聞こえた。

「私だって、アンタの助けになってあげたいのよ」

夫婦でしょ、という言葉は飲み込む。言った後に赤面するのが目に見えているからね。
杏寿郎はしばらく固まっていたけれど、やがて慈しむような笑みを浮かべた。それは、子供のする顔じゃない。
２日目の夜、ようやく杏寿郎が元の姿に戻った。
その後何も無かったかって？逆に、アイツが何もしないと思う？

「本当に……今度は気をつけてよ」
「善処する！」

する気ないな、と私は千寿郎の作ったおかずを口に含む。お、ニンニクが効いてる。
そんな私たちのやり取りを、千寿郎とお義父様は微笑ましいものでも見るかのように、温かい視線を向けていた。

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