拾壱 虚ろ ページ12
気が付いたときには、雷と雨は嘘のように止んでおり、空からは青が覗いていた。
「晴れましたね」
「晴れてしまったか!」
何故か悔しそうな煉獄さんだが、理由は聞かなかった。聡明な煉獄さんのことだ、わたしなどでは理解できないようなことを考えているのだろう。
「あの、煉獄さん」
「……」
「れ、煉獄さん?」
「…………」
名前を呼んでも、煉獄さんが反応してくれない。最初は聞こえていないのかと思ったが、目はバッチリと合っているため、聞こえていないわけではないらしい。
「Aは、俺を名前で呼んでくれないのか?」
どこか寂しそうな響きに、わたしは目をスローモーションのように、ゆっくりと瞬きをした。どうやら煉獄さんは、名前で呼んでほしかったらしい。
大人、というイメージの煉獄さんだが、実は子供っぽいところもあるのだな、と思わず微笑んだ。
「杏寿郎さ……」
「さん付けはいらない」
「………………杏寿郎」
煉獄さ……杏寿郎は、うむ!と満足げに頷く。代わりに、わたしは顔の熱が上がるのを感じた。
たぶん……いや、間違いなく、杏寿郎は今の状況を楽しんでいる。雰囲気で分かる。
「A、コレは俺が貰ってもいいか?」
コレ、とはあのミモザの鍔のことだ。なぜ杏寿郎がそんなことを言ったのかは分からなかったが、このまま会えなくてなるという不安があったので、わたしは喜んで差し出した。
「家まで送ろう」
「大丈夫ですよ、近くですから」
「また迷子になるぞ?」
いつの話してるんですか!と赤面するわたしに、杏寿郎は面白いものでも見たかのように、ワハハ!と腕を組んで笑った。
結局、わたしは杏寿郎に家に送られ、黙って家を抜け出したために、3日間の外出禁止令が出された。
時間が経つのは、こんなにも早かっただろうか。
わたしが杏寿郎と出会って、早数年。今では名前を呼ぶのに抵抗もない。
杏寿郎は柱となり、今まで以上に会うのが困難になってしまった。
「杏寿郎」
その日は、珍しくわたしたちは会っていた。といっても、話せる時間は10分もない。
「ん、どうかしたか?」
いつものように、何事もないかように、ワハハ!と笑う彼は、昔から何も変わらない。だというのに、わたしは年々変わり続けている。
それが悲しくて、虚しくて。意識していたのは、わたしだけなのかと。途端に何かが込み上げてきて、抑えが効かなくなってしまった。
「わたしが好きだと言ったら……どうしますか?」
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squid(プロフ) - 愛羅さん» 返信が遅れてすみません!感動系は少々苦手なのですが、そのように思っていただけたなら幸いです!完読ありがとうございます! (2019年7月1日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
愛羅(プロフ) - 感動しました!涙が止まりません…( ; ; ) (2019年7月1日 0時) (レス) id: 83407bc1eb (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - ぶるこ。さん» コメントありがとうございます!素敵な夢だなんてとんでもないです。完読していただきありがとうございます。 (2019年6月17日 7時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
ぶるこ。 - 涙ぼろぼろです。素敵な夢をありがとうございます…。 (2019年6月17日 2時) (レス) id: 48aba5c9ee (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - キノさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです。 (2019年6月14日 15時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:squid | 作成日時:2019年5月11日 17時