検索窓
今日:2 hit、昨日:7 hit、合計:24,073 hit

拾玖 鬼 ページ20

肉塊が消え、横転した汽車の中で、わたしは杏寿郎を待つ。
わたしが1人残るのを最後まで渋っていた彼だが、生い先短いわたしよりも、もっと優先すべき人たちがいる。
わたしの意思を組んでくれた彼には、感謝の言葉しかない。

「他に誰もいねえか!?」

どこからか、猪頭の少年の声がした。
名前は確か、伊之助くんと言ったか。

「伊之助く……っ!」

急に声を上げようとしたからか、肺が締め付けられて咳き込む。
なかなか治らず、ついにはその場に蹲ってしまったが、不幸中の幸いか、伊之助くんはわたしに気づいてくれた。
わたしが動けないと察したのか、伊之助くんはわざわざ汽車に乗り込み、わたしを担ぎ上げ、そのまま外に運んでくれた。

「ありがとうござい……ゲホッゲホッ」

もう喋るな!と、表情は見えないけれど慌てた様子の伊之助くんは、忙しそうに他の人たちの救助に向かう。
口は悪い部類に入る少年だが、本当は心優しい少年なのだろう。

「無理はするな」

一体いつからいたのか、背後から背中をさすってくれる、杏寿郎の姿があった。
わたしに気を使ってくれたのか、いつもより声は控えめだ。それでも充分大きいが……。
彼の小さな気遣いに苦笑していると、地面に仰向けに横たわっている少年を見つけた。彼はわたしと目が合うと、心配そうに眉を下げた。
だが、わたしよりも彼の方が重症だ。腹のあたりに血痕が見られる。
止血はしているから大丈夫だと笑う炭治郎だが、とてもそうには見えない。

「自分を大切にしてください」
「Aさんには言われたくないです」

コロコロと表情の変化する彼の手は、杏寿郎とよく似ている。潰れたマメが、彼のこれまでの道を表してくれている。それがどれほど過酷かも。
さぁ帰ろう、と踵を返そうとしたとき、何かが地面を勢いよく落下した。雷のような、目に見えないほどの速さで。

「……ここから動くな」

初めてかもしれない。杏寿郎の顔に、いつもの笑みはなく、張り詰めるような緊張感のみがあった。
目の前に落下したのは、人だった。いや、人とよく似ているけれど、その鋭い牙も、かなり派手な髪や眼の色は、人間ではない。
鬼だ。

「……」

鬼と目が合った瞬間に、鬼は消えた。
正確には、拳を向けた状態で、わたしの目前まで迫っていた。
わたしを守るように、杏寿郎が前へと踏み出すと、伸びてきた鬼の手を一刀両断する。
鬼は素早く後退し、好戦的な笑みを浮かべた。
斬られた腕は、既に元の状態に戻っていた。

廿 赫怒→←拾捌 業火



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (51 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
46人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

squid(プロフ) - 愛羅さん» 返信が遅れてすみません!感動系は少々苦手なのですが、そのように思っていただけたなら幸いです!完読ありがとうございます! (2019年7月1日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
愛羅(プロフ) - 感動しました!涙が止まりません…( ; ; ) (2019年7月1日 0時) (レス) id: 83407bc1eb (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - ぶるこ。さん» コメントありがとうございます!素敵な夢だなんてとんでもないです。完読していただきありがとうございます。 (2019年6月17日 7時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
ぶるこ。 - 涙ぼろぼろです。素敵な夢をありがとうございます…。 (2019年6月17日 2時) (レス) id: 48aba5c9ee (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - キノさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです。 (2019年6月14日 15時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:squid | 作成日時:2019年5月11日 17時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。