拾玖 鬼 ページ20
肉塊が消え、横転した汽車の中で、わたしは杏寿郎を待つ。
わたしが1人残るのを最後まで渋っていた彼だが、生い先短いわたしよりも、もっと優先すべき人たちがいる。
わたしの意思を組んでくれた彼には、感謝の言葉しかない。
「他に誰もいねえか!?」
どこからか、猪頭の少年の声がした。
名前は確か、伊之助くんと言ったか。
「伊之助く……っ!」
急に声を上げようとしたからか、肺が締め付けられて咳き込む。
なかなか治らず、ついにはその場に蹲ってしまったが、不幸中の幸いか、伊之助くんはわたしに気づいてくれた。
わたしが動けないと察したのか、伊之助くんはわざわざ汽車に乗り込み、わたしを担ぎ上げ、そのまま外に運んでくれた。
「ありがとうござい……ゲホッゲホッ」
もう喋るな!と、表情は見えないけれど慌てた様子の伊之助くんは、忙しそうに他の人たちの救助に向かう。
口は悪い部類に入る少年だが、本当は心優しい少年なのだろう。
「無理はするな」
一体いつからいたのか、背後から背中をさすってくれる、杏寿郎の姿があった。
わたしに気を使ってくれたのか、いつもより声は控えめだ。それでも充分大きいが……。
彼の小さな気遣いに苦笑していると、地面に仰向けに横たわっている少年を見つけた。彼はわたしと目が合うと、心配そうに眉を下げた。
だが、わたしよりも彼の方が重症だ。腹のあたりに血痕が見られる。
止血はしているから大丈夫だと笑う炭治郎だが、とてもそうには見えない。
「自分を大切にしてください」
「Aさんには言われたくないです」
コロコロと表情の変化する彼の手は、杏寿郎とよく似ている。潰れたマメが、彼のこれまでの道を表してくれている。それがどれほど過酷かも。
さぁ帰ろう、と踵を返そうとしたとき、何かが地面を勢いよく落下した。雷のような、目に見えないほどの速さで。
「……ここから動くな」
初めてかもしれない。杏寿郎の顔に、いつもの笑みはなく、張り詰めるような緊張感のみがあった。
目の前に落下したのは、人だった。いや、人とよく似ているけれど、その鋭い牙も、かなり派手な髪や眼の色は、人間ではない。
鬼だ。
「……」
鬼と目が合った瞬間に、鬼は消えた。
正確には、拳を向けた状態で、わたしの目前まで迫っていた。
わたしを守るように、杏寿郎が前へと踏み出すと、伸びてきた鬼の手を一刀両断する。
鬼は素早く後退し、好戦的な笑みを浮かべた。
斬られた腕は、既に元の状態に戻っていた。
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squid(プロフ) - 愛羅さん» 返信が遅れてすみません!感動系は少々苦手なのですが、そのように思っていただけたなら幸いです!完読ありがとうございます! (2019年7月1日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
愛羅(プロフ) - 感動しました!涙が止まりません…( ; ; ) (2019年7月1日 0時) (レス) id: 83407bc1eb (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - ぶるこ。さん» コメントありがとうございます!素敵な夢だなんてとんでもないです。完読していただきありがとうございます。 (2019年6月17日 7時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
ぶるこ。 - 涙ぼろぼろです。素敵な夢をありがとうございます…。 (2019年6月17日 2時) (レス) id: 48aba5c9ee (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - キノさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです。 (2019年6月14日 15時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:squid | 作成日時:2019年5月11日 17時