外伝ノ拾壱 ページ34
鬼と化したAの力は弱かった。傷が再生する速度は遅い。錆兎による刀傷はないが、皮膚は頑丈ではないのだろう。木の枝に引っ掻けでもしたのか、衣服から覗く肌は痛々しく血が滴り落ちている。
「A」
彼女の両手首を纏めて、片手で木に押さえつける。それでも傷ついた獣のように暴れるAは、錆兎の方を見ていない。暗闇をさまよう迷い子のように、手探りで何かを探す子供のように、その目は誰もいない空間を見つめている。
期待していなかったといえば嘘になる。禰豆子のように、自分のことを思い出してはくれないかと。だが、現実は残酷だ。彼女は思い出すどころか怯えた様子で彼から後ずさったのだから。
斬らなければならない。彼女とて、人を殺してまで生きたいとは思わないはずだから。ここで命を絶ってやるのがせめてもの救いというものだ。
『錆兎さん。恋愛って知ってます?』
いつだったか、錆兎は胡蝶から恋愛なるものについて説かれたことがあった。最初こそ、何故そんな話を俺にするんだと思った錆兎だが、今ならわかる。
『恋と愛は違います。互いに愛するだけでは、恋にはならない。互いに恋するだけでは、愛にはならない』
恋とは、その人の想い関係なく、自分の意思でその人を想うこと。
愛とは、その人の想いを考慮して、その人の幸せを願うこと。
この2つは似ているようで全くの別物だ。
『貴方達は互いに愛しすぎてるんです。どちらかが恋をしないと。自分の意思のままに動くのも1つの手ですよ』
そう口元に人差し指を立てて微笑んだ胡蝶は、一体何を伝えたかったのか。
「……」
頸を斬らなければならない。今すぐにでも、彼女を楽にしてやらなければならない。
『自分の意思のままに_______』
だが、錆兎は信じられないことに、Aから手を離した。Aの背に手を回し、優しく抱き寄せる。だが、Aは駄々をこねる赤ん坊のように彼の手の中で暴れ、錆兎の背中にその鋭い爪を突き刺した。爪は食い込み、そこから血が流れるも、錆兎は気にした様子はない。
「すまない、A」
手には日輪刀を持ったまま、錆兎はAの後ろに流れる髪を撫でる。慣れていないのか、その手つきはぎこちない。
嫌だと拒むように暴れるAの爪が、錆兎のお面の肝を斬る。お面は地面の緑に落ちるが、錆兎の隠れた笑みは崩れない。
錆兎の腕から抜け出たAだが、逃がさないとばかりに彼は彼女の手を掴み、彼女の指に小さな何かをはめ込んだ。
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squid(プロフ) - シンアさん» コメントありがとうございます!こちらこそ、面白いストーリーを提供していただきありがとうございます。頑張ります! (2019年8月3日 17時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
シンア - 続編頑張ってください!!お花見のストーリありがとうございます (2019年8月3日 17時) (レス) id: 35c1a3a4d0 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - りんごさん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2019年8月2日 22時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
りんご - foooooo!!!))ついに来ましたね、続編!!更新頑張ってください (2019年8月2日 21時) (レス) id: 65b8d779c9 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - シンアさん» コメントありがとうございます!夏に合わせて海に行ったりとかを考えていたのですが、お花見も良いですね。参考にします、ありがとうございます! (2019年8月1日 20時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:squid | 作成日時:2019年6月1日 20時