外伝ノ拾 ページ33
陽の光さえ遮る人里離れた山奥で、その女は獣のような唸り声を上げて、狂ったように木にその拳を振り下ろしていた。
斧を何度も振り下ろしてようやく切れるはずのその大木は、女の小さな手から繰り出された突き1発で敢え無く沈む。
「……A」
背後からの声に振り返ると、女の後ろには宍色の髪に、狐のお面で顔を隠した青年がいた。
青年には気づいていなかったのだろう、女は驚いたようにその場を飛び退くと、人間のものとは思えない鋭い牙を剥き出しにする。
「もう、覚えてはいないか」
目の前で猫のように威嚇する女、Aに、青年、錆兎はお面の下から話しかける。だが、Aがそれに応えることはない。
「お前を守るための刃で、俺はお前の頸を斬る」
鞘から刀を抜きながら臆することなく近付いてくる錆兎に、Aは本能的に勝てない相手だと悟ったのか、僅かに後ずさる。その瞬間、蒼い刀が流れるようにAの側まで迫った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
Aが任務へ向かった山は、鬼による直接の被害情報はなかった。だが用心するに越したことはない。こまめに鬼殺隊の誰かが鬼がいないことを確認する必要がある。今回はAがその係だった。
鬼の被害に遭うはずがない。そして、鴉からAの訃報が届いてもいない。なのに、鬼を討伐するようにと指令が届いた。
「……意味は分かりますか?鱗滝さん」
「ああ。俺たち鬼狩りの役目は、鬼を斬ることだからな」
任務へ向かう錆兎に声をかける胡蝶だが、そこにいつもの笑みはない。感情を押し殺すように、痛みに耐えているかのように、唇をキュッと結び、握りしめた蝶の羽織にはシワができている。
何故そんな、悲痛な様子で錆兎の背を見つめるのか。それを問うものはここにいない。
「貴方が行かなくても良いんですよ」
「そうかもしれないな。だが、これは俺が行かなきゃならない。アイツの尻拭いは俺の役目だからな」
愛しい人を殺せるかと聞かれたとき、すぐに頷ける者は数少ないだろう。だが、それは決して冷徹というわけではない。愛していないというわけではないのだ。少なくとも、錆兎の場合は。
「約束したんだ。もう独りにしないって。アイツは寂しがり屋だから、今もどこかで泣いてるかもしれない。そろそろ迎えに行ってやらないとな」
そう地面を踏みしめる彼の表情は、宍色の髪に隠れて見えなかった。そして、彼は2度と後ろを振り返ろうとはしなかった。
「世話になった」
それだけを言い残して。
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squid(プロフ) - シンアさん» コメントありがとうございます!こちらこそ、面白いストーリーを提供していただきありがとうございます。頑張ります! (2019年8月3日 17時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
シンア - 続編頑張ってください!!お花見のストーリありがとうございます (2019年8月3日 17時) (レス) id: 35c1a3a4d0 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - りんごさん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2019年8月2日 22時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
りんご - foooooo!!!))ついに来ましたね、続編!!更新頑張ってください (2019年8月2日 21時) (レス) id: 65b8d779c9 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - シンアさん» コメントありがとうございます!夏に合わせて海に行ったりとかを考えていたのですが、お花見も良いですね。参考にします、ありがとうございます! (2019年8月1日 20時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:squid | 作成日時:2019年6月1日 20時