親子はじめました

泣きたくない ページ41

『今まで、どこにいたの』


深呼吸してやっと出た言葉は
思ったよりも冷たい口調になってしまった。

テーブルに座ってからずっと
俯いたままのおばさんがぎゅっと目をつぶる


「ごめんなさい、わたし、」

『謝って欲しくて聞いてるんじゃないよ。
ちゃんと寝て、ちゃんと食べてるの？』

「…うん。私再婚しようと、思ってて。
今はその人の所にいる」

『そう。』

「あの、Aちゃん、」

『何しに来たの』

「え、」

『グクのこと、迎えに来たの？』

「……」

『違うんでしょ』


おばさんの様子を見てなんとなく分かってた。
迎えに来たんじゃないって


「その、今はまだ…。
相手の人にも、まだグクの事は話してなくて。
黙ったまま行ったりしてごめんなさい。
グク、どうしてるか、一目見たくて、」

『会わせないよ。帰って』

「…え、」

『それからこれも返しとく。要らないから』


グクのリュックに入っていたお金
手をつけずにしまっておいたそれをテーブルに差し出す


「、ごめんなさい…」

『っ、だから！
謝って欲しいんじゃないんだって！
誰に謝ってるの？私？それともグク？』

「おい 落ち着け」


大声になる私をユンギがなだめる

やだ。泣きたくなんてないのに。

我慢していた涙が出そうになって俯くと
テーブルの下で、ユンギが私の手を握った。


駄目だよ私、まだ泣いたら駄目。


その手を握り返して俯いていた顔を上げる


『おばさん、知ってる？』

「え？」

『ジョングク、バナナウユが好きなんだよ』


じゃがりこも好きだけど、
1番好きなのはユンギと初めて飲んだバナナウユ


『保育園で1番仲の良い友達はユギョムくん』


いつもグクに優しくしてくれるとっても良い子。


『最近のお気に入りは長靴。晴れでも履きたがるの』


長靴を履いて水溜りに入るのはもっとお気に入り


『いちばん好きなのは絵を描くこと』


最初に持ってきたクレヨン
もうすごく小さくなったんだよ


『グク、いつも何書いてると思う？』

「A、」


声が震えないように繋いだ手を握りしめる


『おかあさんだよ。』

「…っ、」

『おばさんのこと書いてる』


毎日少しずつ大きくなりながら、
毎日あなたのこと思い出しながら、待ってるんだよ。


『グク帰ってきちゃうから、もう帰って。』

「っAちゃん、」

『連れて行くつもりがないなら、もう此処には来ないで。』



泣きそうに歪んだその顔を見たくなくて
リビングの席を立った。

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