八方美人のクライエント

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「で、名前は？」

「旭です」

「旭くん…お前と性格似てるん？」

「あー、いや？気弱いですよ、あいつ」



自身が弟でありながらも、兄に対しては強気になっていて
旭は旭で、仲が良い人間には心を開いて明るいながらも自我はあまりなく、誰もが認めるようなおとなしい性格だった
だから互いに、テレビで注目されるようなプロ野球選手と
福祉の現場で働く人間とに、分かれたのだろう

大きな兄弟喧嘩というものはしたことはないものの、関西の生まれであるせいか、互いに口調は強気でいた



「お前の兄貴やのに、お前より気弱いん」

「弱いというか、おとなしいですね。こう、優しい感じの…」



(兄)は両手でなだらかな丸を宙に作り、旭の優しさを表現する
そんな(兄)のぎこちない行動を福田はぼーっと見ながら



「ま、機会があったら会わしてや」



そこまで重要な約束にはせず、偶然会うことがあれば、球場に来ることがあれば紹介してくれと伝えた



「僕は全然良いですよ。兄がどう言うかは知りませんけど…」

「つれへんなぁ」

「ま、押しに弱いと思うんで。お願いって言ったら、なんでも引き受けてくれますって」



人の為に働いている旭は、滅法押しに弱い
誰かが懸命に頼めば、どんなお願いであっても一度は飲み込んでくれるだろう



「そんなもんなんや」

「はい、多分…」



取り敢えず聞いてみなければわからない
もう兄の話からは切り替えようと



「じゃ、僕もう部屋戻りますね」



自身のカバンと少しの道具を持って、旭は先ほどまで話していた先輩らに「お疲れ様です」と挨拶をし、ロッカールームを出た

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