57 . 医者 ページ8
慧side
薮「どう、思い出した？」
慧「俺、こんな大切なこと…。
…今日、2人と水族館行ってね。それで大ちゃんに、
どこかで会ったことある？なんて言っちゃって。ほんと最低だわ。」
薮「確かに、有岡くんからしたら最低かもしれないな。」
薮は、俺の性格を知ってか、気を使うことなく接してくれる。
それが今でも変わってなくて。なんだか安心した。
慧「ってことは大ちゃん、今も…？」
薮「あぁ、通院は続いてるよ。」
慧「あのさ、ひとつだけ…聞いてもいい？」
そろそろ聞いてもいいよね、俺がずっと気になってたこと。
薮「俺のこと、か？」
俺は、薮の目を見て頷いた。
薮に初めて会った時、やけに馴れ馴れしい医者だと思った。
「俺、昔から子供が好きでさ。」
まるで…そう、小さい子を相手にしているようだった。
「たくさんの命を救いたくて、医者になったんだ。」
そもそも、何で精神科医の薮が大ちゃんのことを知っているのだろうか。
「でも、いつからか患者の心を救いたいと思うようになっていて。」
何で、あの日小児病棟の子達と仲良さげに話していたのだろうか。
「俺、精神科医の前は小児科医だったんだ。
小児科医として、最後に担当したのが有岡くん。」
何で、俺は今までこの疑問を解決しようとしなかったのだろうか。
「そして、精神科医としての初めての患者さんは、慧…お前だったんだ。」
その結果がこれだ。結局、薮を傷つけているじゃないか。
「運ばれてきた"だいちゃん"がまさかの有岡くんだったなんて、正直まだ頭が混乱してる…
転科することで、結果的に逃げたんだから、有岡くんには嫌われてると思うよ。」
初めて見た、薮の弱さ。
俺は受け止めきれたかな、、
なんて声をかけるべき？
全然分からなかった。
「はい！この話は今日で終わりな。」
そろそろ2人が起きるかもしれないから戻ろう
と、いつものふにゃふにゃ笑顔で言うもんだから、俺は何も言えず、今度は薮の隣を歩いた。
ガラスの外を見ると、満月がぽつんと暗闇に浮かんでいた。
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作者名：朔 | 作成日時：2020年2月1日 23時
