検索窓
今日:2 hit、昨日:2 hit、合計:207,617 hit

第9話 善人 ページ10

「君が人を殺す時、君がその人を人殺しの親にしてしまう時は、必ず俺が君の頸を斬る!絶対に!」


そう言って手を握った手は、声は、酷く震えていて、頼りなくて

でもどこか、安心出来る


『必ず…?絶対…?』
「必ず!絶対!」
『お父さんは、天国で誇れる人であれる?』
「鬼になっても強い理性を保てる娘を育てたんだって!きっと鼻高々に胸を張れるようにする!」


『……私、生きててもいい?』

「人が死ななきゃいけない理由なんてない、人を殺さない君は鬼なんかじゃない、人なんだから、君が死ななきゃならない理由なんてない」


はっきりと、目を見つめて返してくれる。

あぁ、なんだか似てる。派手な容貌と少しヘタレっぽいところは全くだけれど


誰かが哀しんでいたら、そこに無償で手を伸ばす。


人が悲しんでいた、なんて世の常理で、貴方達は動こうとする。

実際に動く。


『う、ぁ…たす、けて…』


流すまいと堪えていた涙が溢れる。


『助けて…!助けて!痛い、苦しい、気持ち悪い!何かを食べても味がしなくて!綿でも口に含んでるみたいで!その癖あの日!血塗れで倒れるお父さんを思い出したら喉が鳴るんだ!』
「…それでもよく耐えたね、よく人里に降りなかったね」
『今も貴方を食べてしまいたいって、思ってしまう!』
「それは怖いなぁ」
『絶対思ってない〜!』


わんわん泣き出したAに、少年は一瞬吃驚したが、それでもやっと年相応の反応を見せたAに小さく、優しく笑ってもう一度手を握り直す

恐怖はもう殆どなく、今はもう年下の子をあやす感じでしかない。


それは鬼であるAが流暢に言葉を話すのもあるだろうが、根に少年の優しさがある故だ。


『うぇ…ひっく』
「泣き止んだ?大人しい子かと思ったけど結構泣く時は泣くタイプなんだ」
『ぅ…貴方は、道端でもどこでも、恥ずかしげもなく号泣しそうなタイプですね…』
「はは、ノーコメントで…君、名前は?」


優しく少年が語りかける。

A、と名乗ろうとして噤む。

Aには姓がない。


母には姓がなかったし、母がAを産むと同時にいなくなった父の姓を、母は決してAに教えなかった。


名乗ってしまったら、迷惑がかかる。


そんなのはわかっていた。


あの家から鬼がでた、人殺しがでたって、後ろ指を指されるかもしれない。


でも、でも、どうか許して欲しい。




『松……松 A。』
「俺は我妻善逸。よろしくね、Aちゃん」




貴方達と過ごせない私に、名前だけでもどうか、共に在らせて欲しい。

第10話 羞恥→←第8話 不協和音



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (383 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
675人がお気に入り
設定タグ:鬼滅の刃 , 我妻善逸
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

いーさん(プロフ) - 満月雪兎さん» すみません、返信遅くなりました。ありがとうございます!頑張りますね! (2019年8月20日 19時) (レス) id: 4740787582 (このIDを非表示/違反報告)
満月雪兎(プロフ) - 『父を殺した者への復讐を誓う』というところが滝夜叉姫っぽくて好きです。更新頑張ってください! (2019年8月11日 12時) (レス) id: 5acf868e91 (このIDを非表示/違反報告)
いーさん(プロフ) - レイラさん» ありがとうございます!頑張らせていただきますね! (2019年8月8日 21時) (レス) id: 4740787582 (このIDを非表示/違反報告)
いーさん(プロフ) - 甘空さん» コメントありがとうございます!そう言って貰えるととても嬉しいです!応援に応えられるよう頑張りますね!いえいえ!本当にありがとうございます! (2019年8月8日 21時) (レス) id: 4740787582 (このIDを非表示/違反報告)
レイラ(プロフ) - 面白かったです。涙腺が崩壊しました。応援しています。頑張ってください。 (2019年8月8日 5時) (レス) id: 16a7c15423 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:いーさん | 作成日時:2019年6月4日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。