ラムネ色／屋上の鍵 ページ2
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俺が君と出会ったのはもう十数年前のこと。
君は友達の友達。
………の、妹だった。
『やっぱり黎くんだ』
高校2年生。
春から夏に変わりかけるこの時期にがらがらと音を立てて開かれた音楽室の扉。
そこからひょっこり顔を出して、いつものようにふにゃふにゃ笑った君は軽い足取りで俺へ歩み寄る。
綺麗にプリーツのかかったスカートが膝の辺りで少し揺れた。
外から鳴り響いていた虫の声が一瞬、遠ざかる。
黎「平塚と……うっちーは？」
決して顔が歪まないように、普段はべったり君の隣にいる2人の名前を口にした。
『クラスの男子みんなでサッカー。負けた方のチームが屋上の鍵壊しに行くんだって』
ばかだ、なんて不服そうに言う君に男なんてみんなばかだよ、と返した。
立ち入り禁止のそこは校内で開かずの扉と化しているけれど、1度だけ委員会の仕事で訪れた事のある俺は知っている。
あの場所から見えるのはいつもの海と、グラウンド。
彼女欲しー！なんて叫ぶ野球部の集団。
ただ、それだけ。
汗と制汗剤の妙な爽やかさが混じった、暑苦しさたっぷりのその空気は高いここまで伝わってきそうで、顔を顰めた。
『黎くんはそんなことしないでしょ』
黎「……しない」
ほらぁ、と口を尖らせる。
絶対怒られるから近づきたくないし、音聞こえたから黎くんだって思った。
なんてちょっぴりちぐはぐな言葉を並べて、俺の首からぶら下がる黒いベースを見つめた。
君はこんな風に、時々俺のところへやって来る。
退屈なとき、淋しくなったとき。
黎くん、なんて他の誰にも呼ばれたことないような呼び名で、俺を呼ぶ。
今年から首元で揺れ出した赤いリボンはどうしたってその色で今日も、たったひとつの年齢の壁を表している。
黎「見とかなくてよかったの？」
思ってもいない言葉をまた、吐き出した。
『やだよ、日焼けしちゃうし』
真っ白な肌に触れながら不意に、窓の外に目をやる。
長い睫毛に縁取られた瞳がきゅっと細まって。
…あぁ、その顔。
俺は今、彼女が何を考えているかきっと一語一句間違えることなく言い当ててみせられる。
暑っついグラウンドで白黒のボールを追いかけているであろう背の高いあいつの事を何故か俺まで思い出した。
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作者名：らら | 作成日時：2021年7月17日 13時
