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静かな店の、真昼間。客は一人もいなくて、レジの傍に置いた椅子に座ったまま、俺は読もうと思っていた小説を読んでいた。
この時間ほど何もかも忘れられる時間はない。

「……さん、…………、て、……ん、……店員さーん?」

自分を呼ぶ声にはっと本から目をあげれば、見知った顔が苦笑していた。

「……本?」
「うん。いつもの雑誌、今日発売日だから」
「今月のめちゃくちゃ可愛かったよ」
「楽しみだなぁ、仕事の休み時間に読むわ」

そう言ったのはしゅーず。
なるせと同じ、歌い手をしている人だ。俺と同じでフレンチブルドッグを飼っていて、歌い手をしながら仕事も両立させている。端正な顔立ちと綺麗なスタイルで、素敵な歌声を持つ、誰もが羨むような人間。なるせもよくしゅーずにぶつくさと文句を垂れていた気がする。

彼が手にしていたのは、フレンチブルドッグ専用の雑誌だった。発売日に買いに来て、仕事の休憩時間に読んで、わざわざ感想を送ってくるのだ。なんでも、歌い手は猫を飼いがちらしく、犬を飼っている人は少ないんだとか。特に、フレブルは好みがわかれるので余計に趣味が合う人間は珍しいとやらでそれが二人の仲を一層深めたきっかけだった。それに、彼はお酒をよく嗜むし、休日に一緒にオシャレなカフェに行ったり、服の好みがあったりと趣味が重なることが多かった。
あまり友達が多くないというしゅーずは基本誘ったら来てくれるので友達が同じく多くない自分としては最高の友人だった。

「あ、しゅーずが気になるって言ってたミステリー小説もはいったよ」
「ドラマのやつ?」
「そうそう、読んだけどめちゃくちゃ面白かった」
「そんなことAに言われたら買うしかないよねぇ、それもください」
「まいど〜」

追加で払われたお金も受け取って、次の飲みの約束もして、彼は店を後にした。グレーのロングコートを翻して颯爽と店から去るその姿はさながらランウェイを歩くモデルのようで、同性の自分でも見とれてしまうほどだった。
そのあと見えなくなるまで惚けてたせいで、店長にまで笑われるのはまた別の話だ。

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作者名: | 作成日時:2022年1月16日 22時

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